橋本裕の日記
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今年から2009年にかけて、団塊世代280万人以上が停年を迎える。厚生労働省の統計によると、04年に退職した労働人口のうち、女性の占める割合は29.4パーセントだという。女性が60歳まで働いて定年退職を迎えるというのは、まだ日本社会では一般的とは言えない。
そうしたなかで、71年にアナウンサーとしてNHKに入局した山根基世さん(59)が、この6月に定年退職した。05年には女性で初のHNKアナウンス室長に抜擢された。これは異例のことだ。定年後は退職したアナウンサーたちと「言葉の杜」を立ち上げた。「子どもたちの言葉を育てる社会貢献」を目差すのだという。「女性セブン」(7/19号)で、山根さんはその動機をこう語っている。
<やっぱり言葉が好きなんですよね、私。言葉人間なのよね。人間の言葉ほどおいしいものはないと思います。ものすごくいい話を聞くと、体が喜ぶ。何かすごく体中に感動がわくのよね。それは細胞を活性化するんじゃないかと思うのよ。相手の言葉の背後にある暮らし方や生き方があって、それが心にしみるわけです。幼いうちに、言葉をかわすことで心を通い合わせることが、心地よいことだなと、体で覚えてもらおうと思って>
そんな山根さんにも、35歳の頃にスランプになり、仕事を辞めようと思ったことがある。しかしその頃、「関東甲信越・小さな旅」のレポーターの仕事が回ってきた。これが山根さんの転機になった。
それは「小さな旅」をはじめて2年ほどたった頃だという。「町や村の片隅でひそかに志高く生きている人々がいる。なぜこのことに自分は今まで気付かなかったのだろう」と思い、自分の仕事の中にたしかな手ごたえを感じ、はじめてテーマを掴んだと思った。
<そういう人たちの言葉をというのはやっぱりすごいものがある。こんなすばらしい人たちがいる。これはちゃんと伝えていくべきだ、と気づいたのです>
さらに、山根さんは45歳のときに、NHKスペシャル「映像の世紀」のナレーションを担当した。このとき、山根さんははじめて納得のいく声の出し方を掴んだのだという。
<足の下からそわーっと感動がわき、上がってきて、これはどうしても伝えなければならないと思った。気づいたら立ち上がって、腰を振って読んでいた>
「映像の世紀」はNHKが世界に誇るもっともすばらしい作品の一つだ。山根さんが思わず立ち上がり、そのナレーションを読んでいたという気持がよくわかる。伝えたい言葉、伝えなければならない言葉がある。そういう思いがこみあげてくるとき、その人の言葉は力を帯びる。
(今日の一首)
志高き人あり世の中の にごりにありて少しも染まず
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