橋本裕の日記
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| 2006年09月17日(日) |
「純情きらり」の美学 |
「NHK大河ドラマ」大嫌いの私だが、同じく韓国の大河ドラマ「チャングムの誓い」は大好きで、毎週楽しみに見ている。どうように、NHK朝の連続ドラマも好きだ。とくに「純情きらり」は私のお気に入りだ。
NHKの大河ドラマが嫌いな理由は権力者や支配者をいつも美化しているからだ。NHKよ、いいかげんにせよ。これに対して、朝の連ドラは名もない庶民の視点で丁寧にドラマが作られているので共感がもてる。
有森家の三女の桜子(宮崎あおい)は、音楽を愛するお転婆な少女だ。「好きなピアノで身を立てたい」という桜子の望みは戦争によって阻まれる。しかし、桜子は、様々な人々との出会いに励まされ、音楽への思いを燃やし続ける。とくに八丁味噌の老舗の一人息子の達彦(福士誠治)との出会いが彼女の運命を変える。彼に励まされ、桜子の音楽への思いがさらに高まる。
「純情キラリ」は愛知県の岡崎が舞台だ。活きのよい三河弁もでてくるので、よけいに親しみがわく。それに戦争で苦しんだ庶民の生活もよく描かれていた。戦争を知らない世代にぜひ見て貰いたかった。
戦争が終わり、桜子は婚約していた達彦が南方から復員してきて喜んだものの、多くの戦友を戦場で失った達彦は心に大きな傷を負っていた。そうした心の障害をどうにか乗り越えて、ようやく二人は結婚することができた。なんと長い道のりだったことだろう。「桜子ちゃん、よかったね」と、心から祝福して上げたい。
桜子は達彦が戦場で死んだらしいといううわさを聞いて、ひととき落ち込んで、自分を見失いかけたこともあった。そのとき、姉の笛子(寺島しのぶ)の夫の冬吾(西島秀俊)に励まされた。音楽の好きな桜子と画家の冬吾は、芸術を愛する者として心が通じ合う。そして桜子はいつか冬吾に特別な感情を抱いている自分に気付く。冬吾も気付いて、二人は意を決して離れた。
このことを笛子に追求されて、桜子は事実を隠さずに冬吾や達彦の前で告白する。そして、達彦に許しをこう。戦争の後遺症もあって、達彦は桜子からこれまで距離を置いていた。しかし、このときの達彦は違っていた。むしろ桜子に淋しい思いをさせたことを謝り、あらためて生涯をともにしたいという。この男らしさに、私はもらい泣きした。
一方、気持の収まらない笛子は、縁側でもの思いにふけっている冬吾に、「あなたは黙っているばかりで卑怯だ」と言う。そして、「他にも選べたでしょうに、何で私だったの。私にしかない、いいとこ言ってみんよ」とつめよる。これに対する冬吾の東北弁の木訥な言葉がよかった。
「おめえのいいとこか。おっちょこちょい、人の話をきかねえですぐ怒る、さむしがりやの焼き餅焼きだな。ごうじょっぱりなくせに、頼りねえしな」 「なによそれ、全部悪いとこばっかしじゃん。いいとこなんか、一つもないじゃん」 「だからいいんでねえか。おなごはな、でこぼこのあるほうがいいんだ。尖ったところや、足りねえところがいっぱいあるほうがな」
笛子は涙を浮かべながら冬吾に寄り添う。冬吾のセリフはじつに心にしみる。本当の愛情は、かくも陰翳のある、でこぼこしたおかしなものなのだ。縁側の日溜まりの中で、しずかに身を寄せ合っている笛子と冬吾にも拍手を送りたい。それにしても杉冬吾よ、おまえは大した男だ。
主な出演者にはこの他、有森家の二女を演じた井川遙や父親役を演じた三浦友和、父の妹で桜子の叔母役の室井滋、祖父役の八名信夫、達彦の母の松井かね役の戸田恵子などがいる。劇団一人も下宿人役で登場し、味のあるキャラを好演していた。最後に脚本を書いた浅野妙子さんの言葉を紹介しよう。
<「純情きらり」は、さりげなく、優しく、静かに始まります。むかし見慣れた連続テレビ小説の、懐かしい雰囲気に包まれ、どこといって変わったところのない、ごく普通の物語の外観をまとって。でも、じっと見ていてください。いつもと違う何かが、少しずつ、たちあがっていくはずです。素晴らしい出演者たちが、心の奥深くに届く本当の物語の扉を、きっと開けてくれるはずです。私もそれを信じて、見守っていきたいと思います>
http://www3.nhk.or.jp/asadora/
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