橋本裕の日記
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| 2006年09月06日(水) |
狂った資本主義の果実 |
9/4の朝日新聞朝刊に、「中国一の金持ちは元学者」として、太陽光発電で成功し、学者から会社経営者に転進して資産2400億円を築いた施正栄(シーチョンロン、43歳)さんのことが紹介されている。
施さんは1963年、江蘇省の農村の生まれ。中国の大学を卒業したあと、政府系の研究機関に勤務したあと、89年にオーストラリアのニューサウスウエールズ大学の博士課程に進学し、そこで太陽エネルギーの研究にとりくんだ。
95年に研究仲間と大学内にベンチャー企業を設立。01年に中国江蘇省にもどり、「無錫尚徳太陽能発電」を設立した。施さんの会社がニューヨーク証券取引所に上場したのは、2005年12月14日、06年には日本企業「MSK」を買収した。
資産2400億円で中国一(世界番付では350位前後)の金持ちになったのは、「無錫尚徳太陽能発電」保有株の含み益がふくらんだ結果だという。施さんはインタビューに次のように答えている。
「今の中国は金のない人が突然豊かになれる。成功しようと人一倍努力してきたし、チャンスにも恵まれた。富はあくまでまじめな努力の産物に過ぎない」
世界の資産家といえばビル・ゲイツ氏が有名だ。フォーブス誌の2006年世界長者番付によるとゲイツ氏の個人資産は約五百億ドル(約五兆九千億円)である。彼は慈善運動にも熱心で、ゲイツ財団はこれまでエイズ対策や教育支援を中心に50億ドル以上を支出している。
世界の富豪第二位は投資会社を経営するウォーレン・バフェット氏で、彼もまた300億ドル以上に相当する所有株式をゲイツ氏の慈善団体に寄付すると発表している。
これは世界的な美談として、新聞でも大きく報じられ、私もかって日記に書いたことがある。しかし、そもそも一個人が一代でこれほどの富を築くことを、単純に美談として受け止めてよいのかという疑問がないではない。
ビル・トッテンさんはこれを狂った資本主義として断罪している。8/8の「温故知新」から一部引用しよう。
<ゲイツ氏やバフェット氏を尊敬すべき立派な経営者だと賞賛する気にはとてもなれない。違法行為はしていないというが、クリントン政権時代にはマイクロソフトは米司法省から独禁法違反で訴えられている(ブッシュ政権になって和解)。
彼らがどんなに能力があり、長時間働いたとか、創造性があったと言っても、一人の人間が一生のうちに五兆円を稼ぎ出すことは不可能だ。少なくとも、正直でまっとうなことをしていたら。言い換えると、それが文字通り血のにじむ努力を払ったものであっても、その対価が五兆円になるべきではないと私は思う。
コンピューター・ソフトウエア業界の経営者として、また利用者として言えば、ゲイツ氏が五兆円もの富を築いたのは、すぐに陳腐化するバグのある製品を消費者に高い値で提供したか、社員に十分な給料を払わなかったからである。
十二年間、世界の富豪としてランクされる間に、製品価格を大幅に下げるか、社員を昇給するという経営判断もできたはずだし、インドから開発拠点を米国に戻すことで米国人の雇用を増やす決断もできたはずであろう。
バフェット氏も同様である。彼が株式を所有する企業ではバフェット氏のような「株主」の圧力によって企業がリストラを押し進め、何千人もの社員が職を失い、その過程で多くの中流米国人が生活を維持できずに貧困化した。これは米国の『株主至上主義』の記録をみれば明らかである。
ゲイツ財団が米国の低所得地域の公立図書館にコンピューターを寄付しなければならないのは、本来税金によって国が行うべきこのプロジェクトが、富裕者層に大幅減税をしたために税収が不足して予算が大幅に削減されたためなのだ。
そして富の大部分がゲイツ氏やバフェット氏といった、ごく少数の人々の手に独占されることなく、多くの勤労者が公正な所得を得ていれば、米国の教育予算がここまで削減されることもなかったのである。
フォーブス誌によると、米国人金持ちの上位四百人の所得は過去二十年間で三・五倍増え、八億ドルから二十八億ドルになったという。米国の一般国民はどうかといえば、真の所得はその間全く増加してはいない。バフェット氏ら富裕層の示す「寛大さ」は、美談ではなく米国の狂った資本主義から目をそらさせる事象の一つにすぎないと私は思う>
http://www.nnn.co.jp/dainichi/column/tisin/tisin0608.html#17
事業で成功し巨万の富を築いた人は、才能やチャンスに恵まれたとはいえ、本人自身もたいへんな努力家だったのだろう。「富はあくまでまじめな努力の産物に過ぎない」(施正栄)といいたい気持も分かる。そして彼らがそのご褒美として億万長者になることに、私も異論はない。ただその常識を離れた天文額的なスケールが問題なのである。
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