橋本裕の日記
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| 2006年08月30日(水) |
遊就館、反米的展示を変更 |
靖国神社に行ったのは、もう10年近く前のことだ。そのとき戦史博物館「遊就館」も覗いてみた。零戦やさまざまな戦争の遺物・遺品が展示してあり、それなりに見応えはあった。どうじに何か異様な精神のオーラのようなものを感じた。
靖国神社が戦死者の御霊を祀るだけのものでないことは、遊就館を訪れてみればわかる。戦争の悲惨さを訴えるのではなく、日本人がいかに勇敢に、けなげに戦ったか、涙を誘うようなセンチメンタルな内容だ。その一方で、日本軍の侵略で蹂躙された2000万人以上のアジアの人々に対する反省や贖罪はない。
太平洋戦争についても、不況でおいつめられたルーズベルト大統領が、国内経済の復興を目的に対日開戦を画策したような説明がしてある。つまり日本アメリカに強要されて戦争を行ったと考えている。展示されたパネルにはこう書かれていた。
「米国の戦争準備『勝利の計画』と英国・中国への軍事援助を粛々と推進していたルーズベルトに残された道は、資源に乏しい日本を、禁輸で追い詰めて開戦を強要することであった。そして、参戦によってアメリカ経済は完全に復興した」
小泉首相の靖国参拝が海外のメディアでも取り上げられ、遊就館の存在も少しずつ知られるようになった。そうすると、当然、こうした靖国神社の戦争観も問題になり、アメリカのマスメディアもこうした靖国神社の一面的な戦争観について疑問や苦情を呈し始めた。
たとえば、アメリカの保守派の論客であるジョージ・ウイルは、8月20日の米紙ワシントン・ポストで、こうした靖国神社の戦争観を「唾棄すべき不誠実」な見方だとし、安倍晋三氏は新総理となったら靖国に参拝すべきでないと主張している。
「遊就館の展示によれば、『大東亜戦争』は、ニューディール政策が大不況を駆除できなかったので、資源の乏しい日本を禁輸で戦争に追い込むという、ルーズベルト大統領の唯一の選択肢として起こされたものであり、その結果、アメリカ経済は完全に回復した、と言う。これは唾棄(だき)すべき安っぽい(あるいは、虚飾に満ちた、不誠実な=dis−gracefully meretricious)議論であり、アメリカ人の中で、アンチ・ルーズベルトの少数ながら声ばかりは大きい連中が同じようなことを言っていた」
アーミテージ前米国務副長官も産経新聞との会見で、戦史博物館「遊就館」のありかたについて、「戦争に関する一部展示の説明文は日本で一般に受け入れられた歴史の事実とも異なり、米国人や中国人の感情を傷つける」と、同様な苦言を述べている。
こうした事態をうけて、ようやく靖国神社も重い腰をあげた。「ルーズベルトの大戦略」と題して第二次世界大戦での米国の戦略について触れた部分については、「誤解を招く表現があった」として、遊就館の展示をかえるのだという。
これまでどんな圧力にも屈しせず、頑なにその姿勢を押しとおし、昭和天皇をもさえ困惑させた靖国神社が、その主張を変えるのは異例のことだ。小泉首相の靖国参拝が国際的に注目されたことの、おもいがけない副産物と言えるのかも知れない。
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