橋本裕の日記
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フイリピンで通用する日本語に、「カラオケ」と「ヤクザ」がある。ジセール先生は「カラオケ」が日本語だとは知らなかった。日本にもカラオケがあるというと、意外そうだった。しかし「ヤクザ」が日本語なことは知っていた。授業中に「ヤクザ」について話し合ったが、日本人にとってフィリピンは治安の悪いところというイメージがあるが、フィリピンの人たちにとって日本とは「ヤクザ」が支配する恐ろしい場所というイメージがある。
実際、ヤクザは日本で大きな勢力を持っている。なぜ、そうなったのか。そして現在の彼らの活動はどうなっているのか。カプランとディプロの「ヤクザが消滅しない理由」(不空社)を読むとよくわかる。アメリカで出版されたこの本は9ケ国語に翻訳され、世界中で読まれている。しかし、日本ではこれを引き受ける出版社がなかなか見つからなかった。
日本のヤクザはアメリカのギャングやマフィアにたとえられる。しかし、実は、それ以上の存在である。それは「極右」というその独特の政治的スタンスと結びついているからだ。「ヤクザが消滅しない理由」から引用しよう。
<ヤクザは日本の極右と密接に結びついており、一つの政治勢力とこれほど関係している組織犯罪グループは世界にはほとんど例がない。少なくともアメリカでは、政治的に極端な団体とマフィアのような組織を入れかえてみても、区別がつかないなどということは考えられない>
<何十年にもわたって組織暴力を容認してきた結果、ヤクザは社会の奥深くに根ざしてしまっているので、静かに退却することはないと思われる。イタリアでは勇敢にも行く手を妨げる警察、検察、聖職者たちをマフィアが爆弾で吹き飛ばしたり、機関銃で乱射したりするが、ヤクザはそんなやり方で反撃したことはない。しかし、彼らの汚職や暴力の使い方は大変陰険である。ヤクザは日本株式会社のすみずみにおよぶ腐食性が強く、影響力も絶大な汚職構造を育て上げている>
8月15日の夕方、山形県鶴岡市にある加藤紘一自民党元幹事長(67)の実家と事務所がある右翼団体の幹部によって襲われ全焼するという事件が起こった。犯人はその場で割腹自殺を図った。たまたま加藤氏の実母は外出中で難をのがれた。犯行の動機は、加藤氏がテレビで小泉首相の靖国参拝を批判したからだという。この右翼団体の構成員は92年にも当時の宮沢喜一首相の私邸前で「天皇訪中反対」を叫んで訪朝で割腹している。
88年には当時の長崎市長・本島等氏が「昭和天皇にも戦争責任がある」と議会で発言して、右翼に襲われた。これらはほんお氷山の一角である。右翼に襲われないまでも日常的に脅迫を受け、圧迫を受けている政治家や言論人は数知れない。田中元首相は日中国交回復にあたり死を覚悟したと言う。じっさい殺害計画もあったようだ。
私の知人にも右翼に脅されたという人が何人かいる。私自身も実は「新右翼」と名乗る男から、深夜に長時間電話を受け、新聞投書の内容について難詰された。電話は明くる日にも及び、電話口に出た妻にまで家族構成について尋ねたあと、「今からそちらに行く。まっていろ」と捨てぜりふを吐いた。新聞に投書した内容について、家族まで持ち出して脅迫されてはたまらない。それまで毎月のように新聞に投稿していたが、その後、私は新聞への投稿を控えるようになった。
これは家族の安全を最優先させる必要からやむを得ないと判断したからだ。無力な一市民としてこれはやむをえないことだと思うが、政治家や言論人が私と同じようにそのような自主規制をしはじめたらどうなるのか。自主規制ばかりではなく、政治家や言論人の中には、こうした勢力に阿る者も出てくるにちがいない。
右翼から脅されない確実な方法は、みずから右翼になるか、右翼的にふるまうことだ。私は小泉首相の靖国神社参拝もたぶんに右翼対策のパフォーマンスではないかと考えている。
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