橋本裕の日記
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| 2003年02月19日(水) |
微笑みを忘れた大人たち |
2月12日(水)に放送されたNHKクローアップ現代「赤ちゃんが笑わない」を見た。全国の児童相談所に寄せられる虐待の相談件数は年間2万3千件以上、そのうち0−2歳児の41%を占めるのが「ネグレクト(無視)」だという。そして、そうしたネグレクトを受けた赤ちゃんには「笑わない」「泣かない」子が多いという。
番組では、虐待を受けた子を預かる施設の様子が紹介されていた。親から愛情を与えられなかった子は大人を信用することができない。そして親代わりとなった職員に対しても、笑ったり泣いたりといった人間的感情を素直に表現できず、夜中に頭を激しくベッドの床に打つという異常な行動さえもみせる。その痛々しい映像も紹介されていた。
なぜ、「笑わない子」や「泣かない子」が生まれるのだろう。実は赤ん坊は最初は誰でもごく自然に笑うのだという。これを「乳幼児微笑」という。これは赤ん坊が特に嬉しいから笑うのではなく、ある意味で本能としてインプットされているもので、他の動物には見られない人間に特有の現象らしい。
ふつうの親であれば、赤ちゃんのこの無心の微笑に誘われて、母親もまた喜びの微笑を浮かべる。つまり母親が乳幼児の微笑に応えることで、そこにコミュニケーションが成り立つわけだ。そして次第に赤ん坊の心が発達し、表情が豊かになり、それと同時に母親の方でも母性が発達する。
スタジオゲストの西澤哲さん(大阪大学助教授:臨床心理)は、「母親は最初から母親ではないのです」という。母性本能といわれるものは実は幻想で、母親は子供を産んだだけで本能的に母親になるわけではなく、乳幼児との「微笑みのコミュニケーション」を通して母親としての愛情に目覚め、子育ての喜びと責任を自覚して行くわけだ。
ところが最近は、赤ん坊のこの「ほほえみ」に応えず、ネグレクトする親が増えている。ネグレクトされると、赤ん坊は無力感に陥り、コミュニケーションをあきらめてしまう。さらに脳内ホルモンの分泌が乱れて発育異常が起きるという。そして再び笑わなくなり、言葉も発しなくなる。そのうえ、頭を叩きつける自傷行為が出てくる。
笑わず、寡黙で、自傷行為を行う赤ん坊が増えていると知って、とても切なくなった。その責任は乳幼児の微笑みに応えようとしない母親や私たち周囲の大人の冷めた反応にあるのだろう。それでは、なぜ私たちは微笑むことをしなくなったのだろう。それは微笑みによるコミュニケーションの豊かさが現代の日本から失われつつあるからだろう。ほほえまない赤ん坊の出現は、私たちの社会が微笑みを忘れ、不機嫌に馴らされようとしていることへの警告なのではないだろうか。
<今日の一句> いぬふぐり ほほえみ返す 影ふたつ 裕
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