橋本裕の日記
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34.スコートの少女たち 正規の教員になって、4カ月があっという間に過ぎた。一学期の終業式を終えて、私は解放感に浸った。40日近い自由な日々が目の前に横たわっていた。部活動の指導や試合の付き添いはあったが、これは私にとって苦役でも何でもなかった。テニス部の女生徒と一緒に汗を流すのも楽しみのうちだった。
その日も昼食の後、テニスコートで生徒達とボールを打っていると、校内放送が入った。 「橋本先生、いらしたら至急事務室までご連絡下さい。電話が入っています」 私はラケットを置いて、テニス着のまま事務室へいそいだ。
電話は和江からだった。 「今夜、お邪魔します」 「はあ」 和江からの突然の電話に、私はうろたえ、曖昧な返事を返していた。 「デートの約束ですか。いいですねぇ」 電話を取り次いでくれた事務員に言われて、私は我に返った。
和江からは1カ月以上連絡がなかった。町子と別れた後、私はこれで和江とも縁が切れたものだと思っていた。そして、晴れて自由の身になったと喜んでいたのだが、やはりぬか喜びだったようだ。
テニスコートへ帰っても、もうラケットを握る気がしなかった。副部長の西野小百合が寄ってきて、私の隣りに腰を下ろした。私と視線を合わせると、 「先生、練習試合の件はどうなりましたか」 「あたってみたんだが、具合が悪そうなんだ」 豊田にある女子校に練習試合を申し込んで、日程の調整がきかないと言って断られたあと、他の学校に電話をする気がなくなっていた。
いつの間にか、私のまわりに少女達の素足が並んでいた。小百合から練習試合のことを訊いた彼女達は不満そうに頬をふくらませた。 「先生、押しが弱いんだから」 「そうよ、もっとがんばってよ」 「それじゃ、合宿でもするか」 私は傍らの草をむしりながら言った。
少女達がざわめいた。 「どこで?」 「ひょっとして、軽井沢?」 「ばかだね、学校の寮にきまっているじゃないか」 「なあんだ」 「私たち、最悪」 寮で暮らしている少女達の間に、失望の声が上がった。私は苦笑して立ち上がると、遠くの山並みに視線を移した。
<今日の一句> 成人の 晴れ着姿で 宮参り 裕
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