橋本裕の日記
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資本主義は何によって成り立っているのか。利潤追求や経済効率だと答える人がいる。しかし、いくらか経済学を勉強したことがある人なら、そうした浅薄な答えはしないだろう。それでは本当の答えは何か。それは「信用」である。
貨幣制度そのものが「信用」によって成り立っている。ただの印刷した紙切れが価値を持つのは、それを発行した国家を信用するからだ。もし、国家の信用がなくなれば、それはただの紙切れに戻る。国債もそうだし、企業の株券も同じだ。国家や企業の社会的信用が、資本主義という制度の根底にあり、これを支えている。
国家、企業、個人にかかわらず、信用を築くのは大変である。しかし。これを失うのはいともたやすい。そうしたことを、私たちは何度も聞かされて育ってきた。勤勉であること、正直であること、親切であること、こうしたことが信用を築く上で大切な徳目になっている。しかし、最近の世相を見ていると、この大切な認識が失われているように思われて仕方がない。
たとえば国の国産牛肉買い上げ事業にからんで、食肉最大大手の日本ハムが雪印食品と同様な、牛肉偽装工作をしていたことが、内部告発によって明らかになった。日本ハム(本社・大阪市中央区)は買い上げを申請した後、1.3トンの牛肉を農水省に無断で焼却したが、このなかに輸入牛肉が含まれていたという。輸入肉を国産と偽装したうえ、同省の検査で偽装が発覚するのを恐れ、証拠隠滅を図った疑いまでかけられている。
日本ハムの大社啓二社長によると、問題の肉は子会社の日本フード関西(現日本フード関西カンパニー)の姫路事業所が日本ハムを通じて買い上げ申請した11.1トンのうちの0.52トンで、内部告発があり、調査した結果、子会社の偽装が判明したのだという。
1月に雪印食品が買い上げ対象外の輸入肉を国産と偽装していたことが発覚したあと、農水省は申請されたすべての牛肉について、対象外の肉が混じっていないかどうか箱を開けて調べることにしていた。とうぜんこの肉についても、検査を受けることになっていた。
ところが、肉を保管する義務がある業界団体の日本ハム・ソーセージ工業協同組合(理事長=大社義規・日本ハム会長)は品質保持期限が切れるなどして補助対象にならないことが自主検査で分かったとして、7月12日、農水省に無断で日本ハムに返還した。23日になって農水省が返還を取り消すよう指導したが、日本ハムはすでに19日に返還された1.3トンを焼却していた。
どうみてもこれは、発覚を恐れて証拠隠滅を謀ったとしか思えない。日本フード姫路営業部田中俊二・営業部長は「指示したのは昨年10月。在庫が増えたためやってしまった」「偽装は私の指示で独断でやった。上層部からの指示はなかった」と語っているが、状況からして、本社の上層部がこの事実を知らなかったとも思えない。証拠隠滅そのものに、かかわっていた疑いさえ濃厚である。
大手コンビニエンスストア・チェーンのファミリーマートはさっそく8日、全国約5900店の店舗から、牛肉偽装が問題になっている日本ハムの全商品を撤去した。この動きは今後他の大型店や小売店にも広がるだろう。その損失は巨大なものだろう。雪印に続いて、日本ハムのブランドが大きく傷ついたことも間違いない。食品の安全性に対する消費者の信頼も揺らいでいる。
それにしても、どうしてこんなお粗末な不祥事が繰り返されるのだろう。アメリカにおける経理不正事件といい、洋の東西を問わず、世界はいま深いところで病んでいるようだ。目先の利益を追うあまり、巨大な損失を抱えることになったのは、利益至上主義という妖怪にあやつられて、「信用」という人生の根本を見失ったせいだろう。
「信用」のかわりに「利潤追求」を根本原理と考える経済人や経済学者がほとんどを占めるに至った現在、こうした不祥事はこれからますます猖獗をきわめることになりそうだ。私たちの世界はいま、利潤追求というニヒリズムの上に、摩天楼のように高くそびえ立っている。それがいかに異様で、醜悪で、虚無的なものか、一刻も早く気付くべきである。
<今日の一句> 小川消え 暗渠の道の 日照りかな 裕
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