橋本裕の日記
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先週に続き、自伝第5部「結婚まで」(3)を書こう。前回までの分までをあわせてご覧になりたい方は、このページの上の表示をクリックしてください。今回の分と合わせて載せてあります。
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3.女子寮のようなアパート アパートは国道63号線沿いの、西之保青野というところにあった。アパートのベランダから、駐車場や田圃の向こうに西春中学校の体育館が見えた。日曜日にはブラスバンドの音が聞こえてきた。
三階建てのアパートで、私は二階に住んでいたが、私の他はほとんど名古屋芸術大学の女子学生ばかりだった。いってみれば、大学の女子寮のような雰囲気だ。紹介してくれた不動産やさんが、「まあ、学校の先生ならいいか」と言った意味がやっとわかった。
ベランダの下の駐車場や、道路沿いは彼女たちや彼女達の彼氏たちの車が停めてある。私もいずれ、車の免許を取り、車を買って、恋人を助手席に乗せて走らせてみたいものだと思った。
こうした発想は、大学院生だったころ暮らしていた陰気な八畳間の下宿では思いつかなかった。やはりあかるく開放的なアパート暮らしを始めて、私の精神がしだいに周囲の雰囲気に慣れてきたためだろう。
生ゴミを出しに行って、同じアパートの住人の若い女性と階段ですれ違ったりすると、おもわずその素肌を露出した服装の大胆さに驚く。しかし、彼女たちはほとんど私を意に介しない。傍若無人といえばいえるが、これも不審な眼差しでじろじろ見られるよりは何倍もありがたい。
引っ越してきた明くる日、私は一応両隣には挨拶に行った。両隣とも芸大の女学生で、私の差し出したバウムクーヘンを、「どうもありがとう」と言って受け取った。私はわざわざ、「高校の教員をしています」と付け加えたが、「そうですか、ごくろうさまです」と、二人とも気のない返事だった。
すぐに分かったことだが、二人にはすでに恋人がいた。スポーツウエアを着た若い彼氏が車でやってきて、しばしば泊まっていった。壁越しに恋人同士の会話が聞こえてくる。会話だけならよいが、やがてセックスの声が届いてくる。ときにはこれが両隣から聞こえてきたりして、とても落ち着いて本を読んだり、音楽を聴いたりしていられなくなる。
夏になって、ベランダを空けて寝るようになると、この声の公害はもっとすさまじいことになった。両隣だけでなく、アパートのあらゆる部屋からの興奮した声が、私の耳に届いてきた。どうしたそんなことになるのか、その理由はすぐに分かった。田圃の向こうの中学校の体育館の壁が反響板になっているのだ。
それにしても、なんという大胆で裸そのものの声だろう。そして、なんと哀しくてあわれで愛しげな声だろう。私は時にはベランダに出て、星を眺め、汗ばんだ肌を風に当てながら、それらの声に耳を傾け、何となく切ないような人生の感慨に耽ったりしたものだった。
<今日の一句> 少女らの 膝がしらにも 日焼けあと 裕
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