橋本裕の日記
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今日も、過去の日記からの引用である。11年前の6月2日(日)の日記から、「花アカシア」という詩をひいておこう。
花アカシア
父が死んだ日 私は仮通夜の席を抜けて 夜の公園に行った 空に星はなく もう近くの民家には 明かりも灯っていなかった 私はベンチにすわり 公園の木々を眺めた ふるさとを出て二十数年 幼い頃の遊び場だった原っぱも いまではすっかり様変わり 私自身もかっての少年ではない この二十数年間 私は精一杯生きてきた 大学を出て社会人になり 結婚して二児の父となり 少しお腹も出てきて 世知辛い世間を渡っていく自信もできた それでも、そのときの私の心は この公園で遊んでいたころの よるべない少年のようだった 私はそんな心細さを紛らわすように ベンチから立ち上がり 夜目にもぼおっと白い 木々のほうに近づいた かすかに匂ってきた 懐かしい香りのする花アカシア
その大きな樹に手をふれ 頬を寄せていると さきほどまで私を領していた ほろにがい悲しみが あてのない不安や恐怖が なにものかによって抱きとられ やさしく慰撫されたかのように 私は安らいで 心が少しだけ明るくなった
<今日の一句> 形見とて 何か残さむ すみれ咲く 裕
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