橋本裕の日記
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昨日に引き続き、サン・テグジュペリの「星の王子さま」の一節を、内藤濯さんの訳で紹介しよう。王子さまは小さな星で一本のバラの花と暮らしていた。彼女は「自分のようなものはどこにもない」と言っていた。ところが、地球に来て、王子さまはたくさんのバラの花が咲いているのを見る。それをみて、王子さまはすっかり悲しくなる。
「ぼくは、この世に、たった一つという、めずらしい花を持っているつもりだった。ところが、じつは、あたりまえのバラの花を、一つ持っているきりだった。それと、ひざの高さしかない三つの火山・・・・」
そこへ、「こんにちは」とキツネが現れる。そしてキツネがこんな話をする。このキツネのセリフが、なかなかいい。読み返しすたびに、ますます味わいの深くなる言葉だ。
「おれの目から見ると、あんたは、まだ、いまじゃ、ほかの十万もの男の子と、べつに変わりがない男の子なのさ。だから、おれは、あんたがいなくたっていいんだ。あんたもやっぱり、おれがいなくたっていいんだ。あんたの目から見ると、おれは、十万ものキツネとおなじなんだ」
「だけど、あんたが、おれを飼いならす(tame)と、おれたちは、もう、おたがいに、はなれちゃいられなくなるよ。あんたは、おれにとって、この世でたったひとりのひとになるし、おれは、あんたにとって、かけがえのないものになるんだよ・・・」
「もし、あんたが、おれと仲よくしてくれたら、おれは、お日さまにあたったような気もちになって、暮らしてゆけるんだ。足音だって、きょうまで聞いていたのとは、ちがったのがきけるんだ。ほかの足音がすると、おれは、穴の中にすっこんでしまう。でも、あんたの足音がすると、おれは、音楽でもきいている気もちになって、穴の外へはいだすだろうね」
「おれは、パンなんか食いやしない。麦なんて、なんにもなりゃしない。だから麦ばたけなんか見たところで、思い出すことって、なんにもありゃしないよ。それどころか、おれはあれ見ると、気がふさぐんだ。だけど、あんたのその金色の髪は美しいなあ。あんたがおれと仲良くしてくれたら、おれにゃ、そいつが、すばらしいものに見えるだろう。金色の麦をみると、あんたを思い出すだろうな。それに、麦を吹く風の音も、おれにゃうれしいだろうな・・・」
「もう一度、バラの花を見に行ってごらんよ。あんたの花が、世の中に一つしかないことがわかるんだから。それから、あんたがおれにさよならをいいに、もう一度、ここにもどってきたら、おれはおみやげに、ひとつ、秘密をおくりものにするよ」
このキツネの言葉を聞いて、王子さまはもう一度、バラの花たちを見に行く。そして、そこに咲いているバラたちにこう語る。
「あんたたち、ぼくのバラとは、まるでちがうよ。それじゃ、ただ咲いているだけじゃないか。だあれも、あんたたちとは仲よくしなかったし、あんたたちのほうでも、だれとも仲よくしなかったからね。ぼくがはじめて出くわした時分のキツネとおなじさ。あのキツネは、はじめ、十万ものキツネとおなじだった。だけど、いまじゃ、ぼくの友だちになっているんだから、この世に一ぴきしかいないキツネだよ」
「あんたたちは美しいけど、ただ咲いているだけなんだね。あんたたちのためには、死ぬ気になんかなれないよ。そりゃ、ぼくのバラの花も、なんでもなく、そばを通ってゆく人が見たら、あんたたちとおなじ花だと思うかもしれない。だけど、あの一輪の花が、ぼくには、あんたたちみんなよりも、たいせつなんだ」
「だって、ぼくが水をかけた花なんだからね。覆いガラスもかけてやったんだからね。ついたてで、風にあたらないようにしてやったんだけらね。ケムシを−−二つ、三つはチョウになるように殺さずにおいたけどー−殺してやった花なんだからね。不平もきいてやったし、じまん話もきいてやったし、だまっているならいるで、時には、どうしたのだろうと、きき耳をたててやった花なんだからね。ぼくのものになった花なんだからね」
王子はバラの花にこう言って、またキツネに会いに行く。キツネは、最後にこんな言葉を送る。
「さっきの秘密をいおうかね。なに、なんでもないことなんだよ。心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目にみえないんだよ」
「あんたが、あんたのバラをとてもたいせつに思っているのはね、そのバラのために、ひまつぶしをしたからだよ」
「人間っていうものは、このたいせつなことを忘れてるんだよ。だけど、あんたは、このことを忘れちゃいけない。めんどうをみたあいてには、いつまでも責任があるんだ」
キツネと出会った王子さまは、やがて砂漠に不時着した飛行士に出会うことになる。そして、飛行士にこんな美しい言葉を語りかける。「星があんなに美しいのも、目に見えない花が一つあるからなんだよ」「砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだよ」
The stars are beautiful , because of a flower that cannot be seen. What makes the desert beautiful is that somewhere it hides a well.
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