橋本裕の日記
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2001年11月14日(水) その日の天使

 今日の日記は私も登録している「日記サイト」の中の看護婦の「かおる」さんの日記の引用である。いい文章なので、全文引用させていただいた。

  ーーーーーー「普通の看護婦 かおるの日記 11/13」よりーーーーー

夜勤明けの朝、その人の病室に行ったときに訊かれた。
「ほんとは、あたし、死ぬんでしょ?」と。
卵巣ガンの末期。すでに全身に転移していて、腹水も溜まっている。
先日、某病院から転院して来た人だった。

 もう、その病院で出来る限りの治療をして来たので、あとはうちで看取られる運命を背負っている。新人の頃は、こんな事を問いかけられる度に慌てるばかりだったけど、最近では、患者がその質問をする前に雰囲気を読めるようになった。例えば、あ、この表情は、病状について訊いて来るぞ、てな具合に、心の準備が出来るようになった。

だから、即答した。
「具合が悪いと気持ちが弱って、みなさん、そう言うんですよね。でも、答えはハズレです。そんな事考える余裕があったら、きちんと食事を摂って、お薬も飲んでくださいね。ほら、また朝の薬飲んでないでしょ!」
彼女の表情が明るくなって、微笑みながら薬の袋を開けていた。
私は大嘘つきが出来るようになった。

それで、今日の最終ラウンドで、また、その人の部屋に行った。管から出た尿量をチェックするための訪室だった。私がベッドサイドにかがんでメモリを見ていると、頭上からその人が言った。
「ねえ、ねえ、天使って、ほんとにいると思う?」

え?いませんよ。そんなものは。白衣の天使って言うのも、あれは嘘です。言っときますけどね。私を見ればわかるでしょ?
「でも、この間読んだ短編集に、”その日の天使”って言うのが書かれてあったよ。」
その日の天使?

「そう。その日の天使。天使は、毎日、その人の前に現われる。だけど、毎日姿を変えて現われるので、多くの人は気づきにくい。ある時それは、気持ちがふさぎこんでいる時にかかって来る友からの電話だったり、恋人のキスだったり、あるいは、生まれてすぐに死んでいった子犬だったり、優しい雨の音だったり。とにかく、姿、形を変えては、その日、その人を救ってくれる。」

・・・・・・・・・。へえ・・・。素敵な一節ですね。
「そうでしょ?そこの花を見て。一昨日、主人が持って来てくれたの。綺麗でしょ?だから、その花は、私にとって、一昨日の天使。」
あ、ほんとだ、一昨日の天使さん、綺麗ですねえ。(笑)

「でも、昨日の天使は、珍しく、ほんとに天使の姿をしていたよ。」
それは、どんな天使?
「天使は、夜勤明けだったみたい。不安な患者に困った質問をされて、上手に嘘をついてくれた。」

自分でも表情がこわばるのがわかった。
あとから思えば、平然と何かリアクションすれば良かった。
でも、私は固まってしまった。
きっと、瞳孔が開いていた。尿量をチェックする手も止まってしまった。

そして、不覚にも沈黙してしまい、涙で鼻がツ〜ンとして来た。でも、零れないように頑張った。だけど、どうして良いのか解らなくて、かがみ込んだまま、もう見終ったはずの尿の袋をいじるふりをしていた。

「そして、私のために、涙こらえている人は、今日の天使。・・・・・・。どうも、ありがとうね。」
もう、かがみ込んだまま、下向いて、床に涙がぼたぼた落ちてしまった。取り返しがつかない。何てことだ。

「でも、家族には、私が知っているって事、内緒にしておいてね。あとは、う〜ん、そうね。看護婦さんたちやお医者さんたちにも。せっかくみんな気を使ってくれているんだから。」

なんだよ、それ。
敬語を使う余裕も無くなって、そうつぶやいてしまった。
もう、無様ついでに、かがんだまま下向いて後ろ向きに部屋を出て来た。(つくづく、人間離れした姿だった。(−−;))
せめて、この顏を見せないように。

それでも、追いかけるようにして、声をかけて来る。
「明日も来てね!ふてくされた天使さん!」

休憩室で、ほんとに、ふてくされながら泣いた。
私がもしも、あと何日も生きられないとしたら、もっともっと、自分勝手に生きていた。
それなのに、あの人は。
だけど、あの人はきっと、私にとって、その日の天使。
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「かおる」さんの日記を読んでいると、看護婦というのはほんとうに大変な職業だなと思う。同時に、すばらしい職業だなと思う。毎回心を打つ話が連載されているので、楽しみである。大学の看護科に籍をおいている長女にも読ませてやりたい。(かおるさん、無断引用して、すみません)

(参考サイト) 「普通の看護婦 かおるの日記」http://www1.u-netsurf.ne.jp/~moon-k/haikei/back/beangel.htm


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