罅割れた翡翠の映す影
目次過去は過去過去なのに未来


2003年11月15日(土)

じいさんに、会ってきた。



まぁ、当分生きてるだろう。
思ったよりも、元気だった。
『絵』の中に在るそいつとは大分変わっていたが。



成田から新宿まで一時間十分。
新宿から長野まで三時間。
久々に帰った地元も『絵』に在る風景とは大分変化し。
家には帰らなかった。
地元について、病院に直行、蜻蛉帰り。
一時間に一本しかない電車を上手く乗り継いでいく。

かつて、入院した事のある病院。
いい想い出は無い。
病院は大嫌いだ。
絶望の色が在るならば確実に病室の白だろうと。

嗅ぎ慣れていた消毒の匂い。
身体を掻き毟ってでも取り払いたいと思えるような。

『祖父』と昔話をした。
でも、殆どが壊れる前の『彼』の話。
取り繕いながら、話す。

祖父は言った、『生きてる間に会えるとは思わなかった』と。
そして少し泣いていた。
僕を『彼』だと信じている。
祖父が『彼』に会える日があるのだろうか。
そんな事を、想う。



じいちゃんには、世話になったのだと、聞かされている。
親の代わりに車で色んな所へ連れて行ってくれたのだと。
元々軍の飛行機職人さんで、とても恐い人だったのだと。
情報は、在る。
でも、想い出が見つからない。
じいちゃんはその頃の想い出を語った。
誰とどこへ行ったなぁとか、あそこは楽しかったなとか。

ごめんね。じいちゃん。
そんなに世話になったのに、そんなに色んなとこ連れてってもらってたのに。
何一つ憶えてやしない。
僕の記憶のじいちゃんはもう身体が弱くなってしまっていて。
車ももう運転出来なくなっていて。
そんな記憶しかなくて。
じいちゃんが嬉しそうに語る昔話に、少しも付いて行けない。
曖昧に笑って、心配ないよっていたわるぐらいしか出来なかった。
『彼』の振りをして。
それだけで、何も出来なかった。

何も出来なかったよ。


Jade |MAILBBS

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