J (3.秘密の恋愛)
11. 一夜の夢 (5)
この世に生まれ点し続けてきた魂の炎が、 最も燃え盛るその時が近づいていることを証すように、 互いの魂がひとつ炎と熱く燃えている。
もはや私たちを遮るものは何もない。 一個の男と女として、は、だが。
エレベーターが降りてきて扉が開く。 タイミング悪く事を済ませたカップルと鉢合せする。 レイはびくっとして身体を私から離す。 カップルは何食わぬ顔で通り過ぎる。
私はレイの背をそっと抱き、素知らぬ顔でエレベーターに乗り込む。 レイの背から緊張した硬さが感じられる。 私はエレベーターのボタンを押し扉を閉める。 レイはふぅと小さくため息。
レイの身体が硬く強張ってゆくのが分かる。 レイの炎の熱が弱まってゆくのが、背を抱く腕から伝わる。 私の炎もまたそれと呼応して少し弱まり、 現実存在としての自己が頭をもたげてくる。
そう、たった一瞬であっても第三者と交わったその時に、 レイと私は現実に呼び覚まされたのだ。
「ばつが悪いものだよね、ああいうのって。」
私は意味のない笑みを浮かべてつまらない言葉を掛ける。
照れるわけでもなく、悪びれるわけでもなく、 ただその場をお茶を濁すようなその言い方。 冷めかけた情炎を再び燃え上がらせるには不適当過ぎる。
俺は何を望むのだ? 俺たちは何を求めているのだ? この今は何のためにある?
そんな言葉より、もっと適した言葉があったろうに、。 ふたりっきりのこのエレベーターの中!
俺は、、レイを抱きたい、んだろう!
|