J (3.秘密の恋愛)
10. 夜の公園で (9)
「でもっ、、。そんなこと今更言っても仕方ないし、、。」
突然、レイは顔を上げて、しんみりとするムードを変えるように、 笑顔になってそんなふうに言いました。 そして明るい声で話し始めました。
「ね、工藤さん、、、ね。私、楽しいこともたくさんあったんだぁ、、。」 「楽しいこと?」 「うん、毎日が楽しかった、、。工藤さんと仕事しててね。」 「、、でも、僕は君に厳しいことばかり言っていた。」
「けど、それは仕事上のことだもん、当然ですもの。 仕事に対しては工藤さん、人に厳しくする以上にご自分に厳しくされてたでしょ、 だから、私も頑張らなくっちゃって、そう思って頑張れたの。 それに工藤さんたら、駄目だなって思う人には一切何も言わないから、 厳しく言って貰えるってことは期待されてることだって、そう思えたし、、。違いますか?」 「その通りだよ。僕は言っても駄目な奴には何も言わない。時間のロスだからね。 それに、企業は学校やクラブじゃないんだ。お友だち気分で仕事はできない。 その点、君は、よく頑張って付いてきてくれたし、今じゃもう、、あっと、この話はいいや。」
「うふふ。工藤さんって仕事の話になると、すぐそうして熱っぽく話すんだよ、、。」 「ん、、うん、そうか、?」 「そうよ、私、工藤さんのこと何でも知ってるもん。」 「何でも、か、、。そうだよな、君はずっと一緒にいたものな。朝から晩まで。」
「毎朝、おはよーって。そして帰りに、おつかれさんって。毎日毎日ね。」 「そうだね、毎日毎日。だったね。」 「私ね、毎朝ね、今日の工藤さん、どんなかなーって。いつも思ってた。」 「ん?」 「また飲みすぎてないかな、とか、」 「おいおい、そんなに毎日飲んでなかっただろ。」 「うふふ。そうかしら。一週間に3日は飲んでたような。。」 「うむ、、。」 「ネクタイどんなかな、とか、あら、昨日と同じスーツとネクタイだっ、とか。」
レイは楽しそうにくすくす笑う。 私も釣られて苦笑して頭を掻いて。
「そうそう、そうやって工藤さんは照れたりすると頭を掻くの。」 「ん?」 「それから、なにか問題に直面すると両手で顔を撫でるのよ、知ってた?」 「そ、そう?」 「電話が長引くと咥えタバコ。灰が落ちて危ないんだから。」 「ん、、。」 「階段を下りるときは一段飛び。よっはっほって。うふふ。」 「あ、はは、。」 「いつもにこにこしてて、。ニコニコドーっ。エヘ。」 「んー、、。」 「でも突然考え事して自分の世界に入っちゃって、。寡黙の人。シブイっ。」 「・・・。」
「私ね、楽しかったわ、、。」 「ん、、?」
「工藤さんを見てるだけで、、楽しかった、、。楽しかったの、、。」
笑顔で明るい声なのに、、。 レイの目には涙。 レイはうっすらと涙を溜めていました。
その涙を見て私は、、。
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