J (3.秘密の恋愛)
10. 夜の公園で (2)
「ここね、春には桜がたくさん咲くんだよ。 ほら、この広場の周囲に植わっている木はみんな桜の木。」
私は周りの木を指差しながらレイに語り掛けました。
「うん、私、知ってます、工藤さん、前に話してくれたことありましたよ。」 「そだっけ。」 「どこかの会社の人とこの公園でお花見するんだとか言って、、。 うふふっ。次の日すっごくお酒臭く会社に来たっけなー、工藤さん、、。」 「あはは、そだっけ。うん、そんなこともあったね。」
確かにそんなこともあった。 毎日会社で共に仕事をしているレイは、私の日常をよく知っている。 あんなことがあった、こんなことがあった、という話になると、 私以上に覚えていたりすることもある。
「そだ。何か飲み物を買ってこよう。桜は葉桜だけど遠く星が見えるし、 せっかくだからさ、お花見気分で楽しく飲もうよ。」 「って、また飲むんですか、、?」 「だめ?」 「ふふっ、いいですよ。私も飲みたい。いい?」 「いいよ、今宵は最後の夜だ、ぱーっと飲んじゃおう。」
と私は軽快に言い放ちました。 が、レイは最後の夜という言葉に引っ掛かってか、 ちょっとだけさびしそうな顔をしていました。 私はそのレイの表情を逃さず見て、 しかし、それに気がつかない振りをして言いました。
「じゃさ、さっそく飲み物を仕入れてこよう。 この裏通りにたしか、コンビニがあった筈だから。」 「うん、。」
私たちは再び連れ添ってコンビニで買い物をし、 そしてまた同じベンチに戻ってくる。 運良くベンチは空いたままでした。
「では、かんぱい。ぱーっと飲もうね。」 「かんぱい、はい、いただきます。」
夜の公園、缶ビールで乾杯するレイと私。
ふたりの時間はふたりきりで過ぎてゆく。 想い出語りをしながら。
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