J (2.結婚)
12. 指輪 (2)
私は自席につくなり仕事を始めました。 レイは私の隣りで私の補佐的な仕事をする。 変わりないふたりの日常がいきなり始まりました。
「午前中に事務処理をし午後から営業先に挨拶回りをしよう。」
私はレイにそう言って、てきぱきと仕事をこなしていきました。
午後になり外出。 私の不在中レイに営業を任せていたため、 私は挨拶を兼ねてレイを連れて出かけました。
ただし。 商談中はもちろん、移動中も、私は一切私的な会話をしませんでした。
レイがひと言だけ、「新婚旅行はどうだったんですか?」と聞いてきましたが、 その際も「ま、予定通りだったよ、」とだけ言って話を続けませんでした。
私の口調が強い拒否の語感を与えたのか、それっきりレイも口を閉ざしました。
話すことは仕事のことだけ。
そんなふたりでした。
レイはしっかり仕事をしていました。漏れなく、客先の評価も上々でした。 「工藤さんよりレイちゃんのほうがいい。」 などと軽口を叩く客先もあったほどでした。
レイは私に誉められたそうな顔をしていましたが、私は誉めませんでした。
やって当たり前、出来て当たり前。
私はそんな表情でレイを見て返したものでした。
・・
夕方6時近くに帰社。
帰るなり矢崎が寄って来て私に言いました。
「よ、お疲れ。一応予約入れといたから、駅前の焼き鳥屋。」 「?」 「メンバーはうちのスタッフと、あと安田と杉野さん。 いやさ、そんな話していたら安田がたまたま通りかかって、 一緒にいいですか、工藤さんの話、聞きたいっす、っていうもんだからさ。 杉野さんはレイちゃん一人じゃかわいそうだから、オレが誘っておいた。」
そうか、今夜、飲もうって言ってたんだ、、、。(参照こちら)
「いいよな、それで。」矢崎が念を押す。 「ああ、いい、ありがとう。」私は答える。
ふっと脳裏に友美さんの顔。 次に義母の顔、、、。
いや、これも仕事だ。
私はかぶりを振って頭を切り替えました。
そして目をやると私の隣りにはレイがいる。
|