J (2.結婚)
9. 切迫流産 (11)
私は友美さんの髪を撫で言い聞かすように言いました。 「トモミさん、ちょっと辛抱してね、」 「?」 (どうするの?)と言う問い掛けるような友美さんの目。
しかし私はそれに答えず、キッとした表情になり車を出す。 (医者だ!、医者だ!、医者だ!、医者だ!、、、)
私は医者という以外頭に浮かばなかった。 今すべきは友美さんを医者に連れて行くこと、 四の五の言って考えている場合じゃない。
駐車場を出て街道を走る、 友美さんは横を向いてじっと私を見ている、 私は医者を探しながら車を走らす。
(そうだ、闇雲に走っていても駄目だ。聞かなくっちゃ、)
私は動転していたのです。 ですから、医者、というだけで車を走らせていた。
私は慌てて車を横に止めて、道先の店で病院の在り処を聞くことにしました。
「トモミさん、ここで待っていて、すぐに戻るから、」 「、、、どうしたの?」 「お医者さん、どこにあるか聞いてくる、産婦人科、」 「!」
友美さんは医者という言葉を聞いた途端、驚いたように起き上がりました。 そして、ついさっき、弱々しく涙ぐむようにしていた友美さんが急に毅然として、 「純一さん、私、私大丈夫、ちょっと気持ちが悪かっただけ、 お医者さんになんかいかなくっても大丈夫、ね、もう直ったわ、もう、」 と言う。
それは私にとって予測の範囲外の反応でした。
「そんなこと言ったって、さっきの君は尋常じゃなかったぜ、 それに、君はまた無理をしている。正直に言わないと駄目だよ。」
「本当なの、大丈夫なの、ね、だから病院になんか行かないで、」
「、、、。」
「ね、旅行、続けましょ、お願いだから、、、ね、純一さん、」
「、、、。」
私は友美さんの必死の形相をまじまじと見ました。・・そして考える。
彼女は嘘をついている、間違いなく。 だがそれは私のことを思ってのこと。
せっかくの新婚旅行、これでおしまい、そんなことになったらと、 きっと友美さんは考えているに違いない。 私さえ我慢すれば、そうすれば楽しい旅行は続けられると。
だけど、トモミさん、それは浅はかな考えだよ。 だって、もし、もし、もーし、妊娠に異常が来しているとしたら、 それは旅行が続けられるとか楽しいっていう次元の問題じゃない。 僕と、君と、生まれてくる子ども、みんなの問題なんだ。
だから。医者に行こう。
・・私は考えを纏め、諭すように友美さんに話す。
「いや、医者に行こう、ね、君の気持ちは分かる、 だけど、今は僕の考えを全てに優先させるよ、これは決定事項だ。」
「嫌。」
、、、思えば友美さんが私の考えに反対したのはこの時が最初であったかもしれない。
友美さんは頑なに医者に行くことを拒みました。
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