J (1.新入社員)
1.面接 (5)
これまでレイは、「はい。」とか、「ええ、」とか、 受身の返事に終始していたものですから、 初めてはっきりと質問した彼女に対して、私は一瞬戸惑いを覚えました。
何故かというと、その質問が、仕事についてではなくって、 私の結婚相手について、であったことにも戸惑いの理由がありました。
それも、真顔で。
ただ、その戸惑いは、ほんの一瞬のことで、 私はすぐに話を続けはしましたが。
私は笑顔で応えて、 「総務部にいる○○さん、だよ。 2月に退社する予定だから、君とは入れ違いになるんだろうね。」 「お幾つなんですか?」 「今21才だったかな、そう、君の3年センパイになる。」 「へぇ〜、随分トシが離れていらっしゃるんですね〜。」 「おいおい、樋口さん、そいつは余計なハナシだよ。」 「あ、シツレイしました、」 レイは、シマッタ、という顔をして、頭を下げました。
「いや、いいんだよ、確かにトシは離れているんだから、 ま、そういうことだ、君が入社したら紹介するよ。」 と、私はその話を切り上げ、
「でさ、最後にもう一回、最初に言ったことを言っておくよ。」 「はい。」 「たった一度の人生なんだから、よく考えること、」 「はい。」 「君にやる気があるなら、僕は君を3年でものにしてやるよ。 ただ、辛く厳しい。その覚悟があるならば、だ。 君の前任者は2年でやめた。 ちょこんと机に座って、時間がくれば帰れる、そういう仕事じゃない。 よく考えて、ね。」 「、、、分りました。」
「よし、じゃ、いこっか、」 「え?、どこへ行くんですか?、」 「人事課長のところ、さ、 樋口さん、帰るときはキチッと挨拶してから帰るものです。 これは社会人の常識だよ、さ、行こう。」
私は席を立って、レイを人事課長席に連れて行きました。
レイは深々と頭を下げて、 「ありがとうございました。」といいました。
私はおう揚に、 「期待しているよ。」とウインクをして、そこで彼女と別れました。
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