もう行かなくなって久しいので、記憶の紗幕の向こうで美化されてしまっているけれど 母方の田舎の、旧暦のお盆の風景を思い出します。
小高い丘に囲まれた人造湖のほとりにお寺と墓地が並び、 夏の夕方になると湖の回りに、ご先祖様をお迎えに行く 家紋入りの弓張り提灯の灯りがぽつりぽつりと小さな列を作ります。 辺りが暗さを増すと、それがほんとに狐の行列のように見えて美しい。 この辺は田舎といっても大した田舎じゃなくて(変な言い方) むしろ町なのに、この時ばかりは昔話の夢を見られそうな景色でした。
大きな家の広間には、オオミズアオという蛾の羽に似た岐阜提灯が所せましと並び 静かにきらびやかな景色が子供の眼に焼き付いています。 初盆のときは純白の岐阜提灯がまた美しいと思ったものでした。 初盆の家では玄関先に、水を張った盥と手拭と新しい履物を置いて迎え火をたきます。 新しい仏様には足があるんだ?とそれを見て感心したものです。 お盆の五日間、お備えするものはだんごやそうめんや生前の好物など 日によって決まりがあるんだと大人になってから教わりました。 仏様が乗るという胡瓜の馬や茄子の牛も、つたない形が却って、紙のひとがたのように 呪術めいて近寄り難い気がしました。あれが動いたら哀れにも恐ろしいだろうな。
東京では以前からお盆はあっさりしたものだったし、 私の近所でもお盆らしい風景というのはほとんど見られませんが、 今でも伝統的なお盆のしきたりを守っているおうちもあるんでしょうね。
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