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2006年10月28日(土) ツヒノスミカ




休日出勤がどうしても嫌になって、ずっとおあずけにしていたレイトショーを見に行く。『ツヒノスミカ』@ポレポレ東中野。線路沿いにある映画館には、併設の小さなカフェがある。上映時間まで少し時間があったので、そこでご飯を食べた。カフェの奥を貸し切って、写真展のオープニングパーティをしていた。

『ツヒノスミカ』は監督が自分のおばあちゃんを撮った、ドキュメンタリー作品だ。「10年前にじいちゃんを亡くし、その後もひとりですんでいたばあちゃんが、突然寂しいと言った…」。息子夫婦との同居にあたり、長く住んだおばあちゃんの家が取り壊される。思い出の品々を片づける親子2人の様子、おばあちゃんの繰り返される日々を淡々と描く。

本当にいい映画だった。親子の滑稽なやりとりに、おばあちゃんのかたくなな性格に、くすくす笑いながら涙が止まらなかった。泣かせどころがあるわけではない。静謐で、音楽もほとんどない。それなのに、明るい。それなのに、泣いてしまう。

「日常のいとおしさ」。ああ陳腐な言葉は、ここでは映像にかなわない。おばあちゃんの一挙手一投足、ひとりごと、部屋にかかったカレンダー、食器、じいちゃんとの思い出の品々、柱、壁紙、床の間の掛け軸、スーパーでのやりとり、野菜を選ぶ手。ただの名もない生活者の、地に足着いた90年がにじんでくる。

帰りの中央線に乗り込むと、ぱらぱらと雨が落ちてきた。帰宅してポストを覗く。手紙を書いた作家から返事がきていた。生きていくとは、……また大げさなことを、書きそうになる。

(写真は先日帰った実家です)


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