2002年12月24日(火) |
「宇宙は見えるところまでしかない」(松尾スズキ) |
NHKのテレビで、のど自慢の舞台裏を映した特番をやっていた。 こういうの好きだ。 「安いのう」と言ってながしていた番組が、 ひとりひとりにスポットを当てることで輝きだす。
(ちなみにうちは毎週日曜日にのど自慢がかかっている家庭です。 親の音楽趣味の悪さって、カルチャー人間になれるかに影響するよねえ)
漫才師を目指す兄弟、プロポーズをする男の子、 おなかの赤ちゃんに向けて歌う母親。
人間の人生とは外から見るとまるでドラマのようだな、と感じた。
自分がやっているとドラマの全くない消費する日常だらけなのに。
地下鉄に乗る時間、「うんいいよー」とメールを送る時間、 トイレに入る時間、バイトで伝票書いてる時間。 そればっかりで埋まっているのに。 そこを省いては成立しないのに。
一年前、9.11のテロがあったときに、 色々な雑誌や書籍、新聞に「愛」という言葉が並んだ。 私はその意味が全く分からなかった。(今でも分かっていないけど。)
私の日常と、「愛」の間に大きな隔たりがあるような気がしたから。
当時の私は、 朝四時に起きて地下鉄に乗り、 アルバイトに行ってコーヒーを出し、(たまにこぼし) ハムを挟んでサンドイッチを作り、(たまに包丁で手を切り) レシートの紙が切れたときにいかに早く交換するかに命をかけていた。
それが私の、宇宙のすべてだった。 「愛」っていうのはきっと、ジョンレノンが言って似合う言葉なのだろうと思った。
のど自慢のとき妊娠五ヶ月だった女性は、 最近、双子を出産したという。 普通の家庭の、小さな寝室が映し出される。 彼女が「あーよかったな、あなたがいてー」 と眠っている2人に向けて歌ったとき 「愛」が見える、と私は感じた。
匿名のひとりひとりにしっかりと日常があるのだ。 そこにはたまに、気持ちいいこともあるんだろう。 涙が出るほど嬉しいことも、何度かあるんだろう。
だから私のことを誰も見ていなくても、 誰も認めなくても 怖がることはないのかもしれない。
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