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2004年07月11日(日) そんな週末


 普段から、あまり外に出かけないわたしは、分刻みだろうと出かける用事はいっぺんに済ませたいってな面倒臭がりなのか忙しい振りなのか。
 仕事絡みで人に会う予定の後に、彼女と逢う約束をしたので、久々にスカートなぞを穿いてみた。
 以前も書いたように、この時期はお天道様の光があるだけで涙ボロボロリ。なので、例のサングラスは必須である。
 仕事絡みの人からは「姐さんみたい」と言われ、久方に会った彼女からは「オンナスパイだ」と言われてきた。
 そして、朝帰り。
 電車の窓に映ったスッピンのわたしは、かなり肥え目のヤクチュウ。口紅ぐらいさしておけばよかった。
 どちらにしろ、愛想を振りまかないと誤解されっぱなしな面なのは確かなようだ。




 何かの口実が欲しくて、時間ばかりをやり過ごした。
 深夜と呼ぶには早すぎる中途半端なシャッターの下りた商店街を通り抜け、スタンド珈琲屋のクリアボードのような自動ドアに書かれている営業時間の残り30分を横目に見ながら、あてもなく喫茶店を探すふりをする。
 横に並んで歩くには慣れない歩調は今年初めて履いたサンダルの左足の薬指に痛みを覚えさせ、もっとゆっくり歩いてと頼む相手ではないのを確認させるのに、どうしてわたしは駅を背にして歩いているんだろう。
 「このまま行くと、俺の家なんだ」
 「そう、じゃあ自販の缶珈琲でいいわ」
 自動販売機の灯りで鞄の中を覗き込み、財布をさがそうとして最初に指に触れた煙草をの箱を取り出す。一本取り出して咥えると、目の前に両手で包みこんだライターの火が差し出された。そのまま深く吸い込み溜息交じりに煙を吐き出す。
 湿気がまとわりつくような梅雨まだ明けきらない、物に水滴を付けさせるのではないかと思うほどのじっとり蒸す夜。昼間の容赦ない太陽に照らされて溶けそうになったアスファルトは未だに熱を放出して、その場に立ち止まった身体に汗を噴出させている。
 もう一歩も歩きたくない。その場に立っているのさえ身体が重くて仕方がない。人影もなく、タクシーすら通らないその路地の脇、街灯がわりの自動販売機の横で二本目の煙草に火を点け、初めて販売機にコインを入れた。ただ冷たいと感じるだけの液体を流し込む。途端に、その場で服を脱ぎたい気持ちになり、化粧も、トロリと粘るように感じるマニュキュアも拭い去りたい衝動が起きた。蒸し暑さはわたしをイラつかせる。
 半分も飲みきらない缶に吸いきった煙草を落として、ゴミ箱に入れると乾いた音はしなかった。
 散らばったパーツを集めてジグソーを組むには到底適してはいないけれど、思い切り壊してみたい衝動に駆られるわけでもない。こんな夜が一番記憶には残らない夜なのだろうと自分なりのコジツケに顔を上げると、そこには初めてみる男の顔があった。
 誰なんだろう?なんでわたしは此処に居るんだろう?それよりも、足が痛い。早くサンダルを脱ぎたい。服も脱いで冷たいシャワーを浴びながら、化粧もマニュキュアも取り去りたい。
 わたしは駅と男を背にしたまま、一言「行きましょう」と呟いて思い出にしたくはない夜を歩き出した。



 ってな、パックも出てきてはくれそうもない「真夏の夜の夢」を思い描いた週末。




 風が吹いてこないなら、新しい風を起こすまで。
 団扇よりは扇風機。
 と、そういう話しでもなく 4点。


香月七虹 |HomePage