蹴文修記

2006年07月04日(火) サッカーで話そう、その24


「中田英寿の引退」

W杯で燃え尽きたわけでもなく、限界を感じたわけでもない。
本当の理由は計り知れないけれど、最後まで彼らしい選択だったと思う。

テレビを見たわけでもなく、ネットで引退報道を見たわけでもない。
でもここドイツで、携帯電話を通じて読んだわずかなニュースから思ったこと。

「ヒデもただのサッカー好きだったんだな……」

**

結果的に現役最後の試合となったドルトムントでのブラジル戦。
僕はバックスタンドのほぼ中央、素晴らしい席で観戦することができた。
W杯、それも日本戦をこれだけ間近に観られたのは幸せだった。
いつになく選手の息遣いを感じ、流れる汗の多さに驚いた。

そのなかで、いちばん汗の量が多かったのが中田英。
運動量が最も多く、誰よりも最後まで戦おうとしていた選手。
そこまで自分を追い込み、体力を限界まで使い切ることができた選手。

その結果、精も根も果て、試合終盤にはミスも目立った。
でも試合終盤、中田英の表情を見てふと感じた。

「あ、ヒデ、この試合をすごく楽しんでる」

ほんの一瞬だけど、パスを出す時の表情がすごく楽しそうだった。
パスは相手にカットされたけれど、心底、中田英がサッカーを愛して
いるってことが僕に伝わった。すぐに厳しい表情に戻ったけれど。



ブラジル戦の試合終了の笛が吹かれ、中田英はピッチに倒れこみ、
しばらく起き上がれなかったという。
恥ずかしながら、僕はこのシーンを覚えていない。

僕の視界には入っていたはずだけど、日本代表のドイツW杯が終わって
しまったという失望感、世界トップとの実力差を思い知らされたという
虚無感、それと共に、先の2戦とは違いブラジル戦はよく戦ったという
充足感が頭の中で交錯し、すべてを目撃していたはずなのに、すべてが
目に入っていなかったのかもしれない……。

きっとテレビで観ていたひとの方が、
中田英の表情はよく覚えていることだろう。
でも、同じ時間を同じ場所で共有できたのは、
きっと僕の記憶に一生残るだろう。

**

サッカーのプロ選手として、海外進出の礎を築いたのは奥寺康彦。
華々しく日本を旅立ち、世の注目を集めたのは三浦知良。
そして欧州の舞台で成功を収め、世界トップレベルの一員となった中田英寿。

ここに続く選手は出てくるのだろうか?



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