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 Bag of Bones/Stephen King

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『Bag of Bones』(邦題『骨の袋』)は、どこかダフネ・デュ・モーリアの名作『Rebecca』(邦題『レベッカ』)を思わせる作品だ。しかし、この小説のホラーやロマンスには、『Rebecca』への単なるオマージュにとどまらない奥行きがある。デュ・モーリアの描いたマンダレーと同様、本書の恐怖の舞台となる古い土地(メイン州にある、人里離れたダーク・スコア・レイクの湖畔)にも、以前亡くなったはずの領主夫人の幽霊が出没する。だがそればかりか、この湖畔には、男、女、泣き叫ぶ子どもたちなど、血みどろの幽霊がぞろぞろと出現するのだ。主人公であるミステリー作家は、妻の突然死の原因を調べながら多くの疑念をつのらせ、憤怒の情にかられていく。実は、妻は彼にうしろ暗い秘密があったのだ。それはダーク・スコア・レイクに秘められた、ある恐ろしいスキャンダルに関係があるらしい。前作『Wizard and Glass』(邦題『魔道師の虹』)と同じく濃厚に広がる非現実感のなか、好奇心旺盛の主人公はこの世からはじき出され、敵意に満ちた別の世界へと追い込まれる危険にさらされる。

『Bag of Bones』は、さまざまな作家の影響が感じられる作品でもある。ハーマン・メルヴィルやレイ・ブラッドベリらの精神があちこちから伝わってくる。ふたつのロマンス(主人公は妻との結婚生活の思い出にふける。また、のちには霊感の強い不思議な娘をもつ、若いシングル・マザーに夢中になる)の描写もしかりだ。また、主人公がベストセラー偏重の世の中に対してさり気なく皮肉を言う場面もある。「出版社の奴らは、生きのいい作家ばかりをちやほやする。スシのネタじゃあるまいし」。愛情、ばらばらの家族、作家生活、危険に脅かされる子どもたち、そしてどこか昔のスタイルにのっとった話の展開。これらの多くの点から言えば、この作品はジョン・アーヴィングの小説にも通じるものがある。

本書は、いきな言い回しやきわどいユーモアがちりばめられた、まさに典型的スティーヴン・キング作品である。布団の中でちぢこまって読んでいれば、ベッドの下からぬっと突き出た悪霊たちの手につかまれ、身も凍る思いをすること間違いなしだ。

内容(「BOOK」データベースより)
ある暑い夏の昼下がり、妻が死んだ。最愛の妻を襲った、あっけない、なんのへんてつもない死。切望していた子供を授からぬまま、遺されたベストセラー作家のわたし=マイク・ヌーナンは書けなくなり、メイン州デリーの自宅で一人、クロスワード・パズルに没頭する。最後に妻が買ったもの―妊娠検査薬。なぜ。澱のように溜まっていく疑い、夜毎の悪夢。作家は湖畔の別荘を思い出し、吸い寄せられるように、逃れるように妻との美しい思い出が宿る場所、"セーラは笑う"へと向かう。そこでわたしを待っていた一人の少女が、すべての運命を変えていく―。『グリーン・マイル』のスティーヴン・キングが圧倒的な筆力で描く、哀切なまでに美しい、重量級のゴースト・ラヴ・ストーリー。


これはホラーなんだけど、主人公がロマンチック・サスペンス専門に書いている作家という設定なので、冒頭は「現代アメリカ作家事情」みたいな内容。舞台は1994年なので、10年前の話とはいえ、ほほう〜!と思うところがたくさんあって、「ホラー」ということはしばし置いといても、なかなか面白い。その「事情」が真実なのか、フィクションなのかは定かではないが、おおかた真実なんだろうと思う。

で、この作家マイクル・ヌーナンの妻ジョアンナが、出だしでいきなり心臓発作で死んでしまうのだが、そこから順調だった執筆活動に陰りが見えてくる。ライターズ・ブロック(いわゆるスランプ)に陥ってしまうのだ。その原因に、どうやらこの世のものではない何かが関わってくるような様子。。。まだ全然ホラーっぽくないのだが、時折、「あとで気づくのだが・・・」という思わせぶりなことが書かれている。

妻のベッドの下から、読みかけのサマセット・モームの『月と六ペンス』が出てきた時、しおりがはさんであったところを開き、妻はこの先を読むことなく逝ってしまったのだ・・・というところを読んで、うわっと思った。いろんな死の感じ方があるけれど、読みかけの本を見たときの思いは、これはまた特別な思いがあるだろうと。私もあの本を読んでおけばよかったと後悔しないように、やっぱり好きな本から先に読もうっと。(^^;

この作品は、Amazonのレビューに「どこかダフネ・デュ・モーリアの名作『Rebecca』(邦題『レベッカ』)を思わせる作品だ」とあるように、至るところに『レベッカ』が出てくる。それも、『レベッカ』を読んでいて当然という書き方なので、『レベッカ』を読んでいないと、理解できない部分もある。途中、何度も出てくる「きのう、私は<マンダレイ>の夢を見た」というような一節は、それだけで、その場の状況というか、主人公の心中を物語っているので、当然『レベッカ』の内容を知らないと、全く理解できないということになる。読書会で『レベッカ』を読んでいて良かったと、普段嫌だなあと思っている読書会を、このときほど有難いと思ったことはない。

また、小説にはよく、他の作家の作品が出てくるが(例えば登場人物が読んでいる本や、部屋に置いてある本など)、そういう場合、だいたい古典の名作だったりするのだが、ここでは、ジョン・アーヴィングやエレン・ギルクリストなどという名前が出てきて、古典の名作が出てくるよりも、リアリティがある。日本人が皆、いつも夏目漱石や川端康成などを読んでいるわけではないように、欧米人だって、シェイクスピアやディケンズなどばかり読んでいるわけじゃない。むしろ現代文学が出てくるほうが自然だと思った。キングはアーヴィングと友だちだから、「ちゃんとしたほんとうの本」としてアーヴィングを出したのは、サービスのような気もするが。

半分以上も読んで、やっと幽霊登場。冷蔵庫の扉につけてあるアルファベットのマグネットで、幽霊が文字を書くのだ。その前から、そういった現象や、他のなんとなく不気味な感じの雰囲気は書かれているのだが、マグネットがひとりでに動いているというのを目撃されたのは初めて。これって、全然ホラーじゃないじゃない!と思っていたところなので、ホッとしたというか、何というか・・・。(^^;
ここに描かれている不気味な感じというのは、やっぱり『レベッカ』を読んでいないと、想像できないだろう。『レベッカ』のマンダレイが下地にあって、その上で不気味さを出している。

冒頭は面白いと思えたのだけど、なかなかホラーにならないし、ホラーっぽくなってからは、その超常現象がどうして起こるのか、全然理由がわからず、イライラした。

キングは頭の良い人だなとは思うのだけど、ホラーのエンターテインメントとしては、これは凝りすぎ?他の作品とちがって、ホラーはホラーでもゴースト・ラブストーリーだというので、中には様々な愛情(特に死んだ妻に対する愛)が描かれているのだが、とにかく最後はお化けたちと戦わざるを得なくなった主人公の作家ヌーナン。あとからあとから出てくる過去の死者の霊。さすがホラーの帝王キングだとは思うものの、今いち怖くもないし、すごい!という驚きもなかった。

それにしても、あそこまでお化けが出てくる家に、なんでいつまでもいられるのかしらね?という感じだった。私だったら、さっさと逃げ出します。そもそもヌーナンはよそ者なのだから、その街の呪いを解いてやる義務も何もないわけだし。やっぱりホラー系では、マキャモンのほうが個人的には好きだと、改めて認識した次第。

2004年09月03日(金)
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