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 魔女は夜ささやく(上・下)/ロバート・R・マキャモン

『魔女は夜ささやく』〈上〉/ロバート・R・マキャモン (著), 二宮 磬 (翻訳)
単行本: 422 p ; サイズ(cm): 19 x 13
出版社: 文藝春秋 ; ISBN: 4163221204 ; 上 巻 (2003/08/28)
内容(「MARC」データベースより)
17世紀末、アメリカ南部。町を襲う魔女を捕らえたとの報に、魔女裁判を行うべくやってきた判事とその書記マシュー。裁判の日が刻々と近づくが、若きマシューは疑念を捨てきれない。獄中の美女は本当に魔女なのか?

『魔女は夜ささやく』〈下〉/ロバート・R・マキャモン (著), 二宮 磬 (翻訳)
単行本: 391 p ; サイズ(cm): 19 x 13
出版社: 文藝春秋 ; ISBN: 4163221301 ; 下 巻 (2003/08/28)
内容(「MARC」データベースより)
「魔女」の処刑まであと数日。彼女の無実を信じ、愛しはじめた青年マシューをよそに、病状を悪化させた判事は、瀕死の床に伏せる。すべての背後にいるのは誰か。その目的は何か。そして悪魔は実在するのか?



これは今までのマキャモン作品とだいぶ違うかな、というのが冒頭の感想。マキャモンの作品として、これを最初に読んだ人には、「マキャモンはいいよ」と言っても通じないだろうなという感じ。

かといって、けしてこれが良くないというわけではなく(個人的には十分面白いと思っている)、これまでのマキャモン作品を踏まえた上で、この作品が成り立っていると考えれば、自然な流れと思えるのだが、最初にこれを読んでしまうと、ちょっと引くかな?とも思う。

2段組でかなりびっしり詰まっている装丁だし、登場人物も多くて、一気にいかないと、なかなか進んでいかず、まだ上巻半ばなのだが、マキャモン特有の「善の側の人間」と「邪悪なもの」の存在は、はっきりと見える。それが今回は、魔女裁判という社会的な状況を仲介として、どんな戦いを繰り広げていくのか、非常に興味深い。

邪悪なものは、以前にも増して邪悪になっているが、善の側の人間は、以前の作品と変わらず、そこでほっと一息つける存在として描かれている。この存在が、マキャモン作品を単なるホラーとして片付けられない重要な要素なのだと私はとらえている。

舞台はアメリカの開拓時代。魔女裁判などが行われていた時代で、疫病の流行などもあり、これまで描かれていた現代の舞台とは大きく異なっているため、ちょっと異質にも感じられるが、個人的には、マキャモンがこの時代に目をつけるであろうことは、なんとなく予想していたことでもあるので、特に違和感があるわけでもない。

魔女裁判の時代の話としては、前にセリア・リーズの『Wirch Child』を読んだので、そのあたりの陰惨で理不尽な状況は、すでに免疫としてある。また、ホーソーンの『緋文字』もその類。これらを読んでいるのと読んでいないのとでは、マキャモンの作品に対しても、感じ方が違ったかもしれない。

いずれにしてもこの時代の魔女がらみの話は、だいたい暗い話が多いが、ここでもマキャモンは、真の邪悪さは、「邪悪なもの」として描かれている「そのもの」ではなく、普通の人間の中に潜んでいることを暴き出していると感じる。善人面をして、内に悪意を秘めている人間の、なんとおぞましいことか!

下巻になってからは、一気に進んだ。マキャモン作品には、あまり謎解きは出てこないのだが(犯人は「邪悪なもの」だったりするし)、これは実体を持った人間が犯人であるということで、では誰が?という好奇心につられて、一気に読み終えた。

描写がかなり露骨だったりして、最初は「これがマキャモン?」というような感じもしたが、最後には、やはり人間の善なる部分をしっかり書いてくれている。主人公のマシューと、彼を孤児院から引き取って、立派な人間になるよう教育してきた判事の、父と子のような愛情には、ちょっとホロリ。

それと、最初はとまどった「かなり露骨な描写」も、意図があってそうしたのだということがわかってくる。そうした言うのも憚られる悪魔の所業でさえ、人間の心の奥底では、それを見たり聞いたりしたいという欲望が渦巻いているのだ。だからこそ、悪魔の所業を露骨に口にするインチキ説教師に引かれていく人間も出てくるというわけだ。

「まあーっ!そんな悪魔の技などとんでもない!私はけしてそんなことはしないし、考えもしないけれど・・・(でも興味津々!)」といったところだろうか。中世に魔女として処刑された人たちも、周囲の人間のそうした隠された欲望の餌食になったのでは。。。

ただ、『魔女は夜ささやく』というタイトルの割に、魔女役のレイチェルのキャラが弱かったかな?という気がする。魔女として活躍して欲しかったという意味ではないが(レイチェルは魔女ではないし、魔女裁判を描いてはいるが、魔女を描いているわけではないと思う)、もう少し、彼女の出番があってもよかったかも。でも、原題は『Speaks the Nightbird』なので、魔女という言葉は出てこない。その代わり、作中に「夜の鳥」という表現は何度も出てくるので、当然ながら、原題には忠実だ。「夜の鳥」は、重要なキーワードとなっている。

ところで、これは原書よりも翻訳のほうがページ数が少ないという稀な本で(普通は翻訳のほうがページ数は多くなる)、ほんとにそうなのか?と気になってしょうがなかった。すでに読んだという人には、その都度聞いてみるのだが、原書と翻訳を両方読んだ人はいないため、いまだに謎が解明されていない。なので、これはぜひとも自分で見比べてみなければと、原書も入手してある。

この本は、ハードカバーでは1冊だが、ペーパーバックでは2分冊になっている。こういうのもまた珍しいのだが、とりあえずざっと見たところ、原書の2巻目の最後と翻訳の下巻の最後は間違いなく同じ文章で、訳者あとがきにも、短縮されているとは書かれていないから、たぶん全訳なのだろう。

しかし、PBの1巻目と翻訳の上巻の最後は一緒ではない。まだ読んでいないので、翻訳ではどこで切れているのか不明だが、翻訳の上・下巻が原書の1、2巻と対応しているわけではないようだ。

2004年07月13日(火)
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