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 川べにこがらし/ウィリアム・ホーウッド

出版社/著者からの内容紹介
モグラくんは吹雪の森へ、ヒキガエルさんは空飛ぶ冒険の旅へ──。行方不明の友だちを心配して救出作戦を練る、しっかり者のミズネズミさん、考えぶかいアナグマさん……。ケネス・グレアムによる世界的名作『川べにそよ風』の続編として、川べに住むゆかいな仲間たちがくりひろげる傑作動物ファンタジー。


ケネス・グレアムのオリジナルも大好きなのだが、これもまた作家が違うとは思えないほど特徴を捉えて書かれている。というか、私が読んだ本の翻訳が同じ人なので、日本語では同じ文体になるんだろうが。ちょっとびっくりなのは、ネズミさんとモグラくんがすっかり「オジサン」になっていること!モグラくんなどは、甥まで出てきて、呼び名も「おじさん」だ。

しかしこの物語では、誰にも名前がないから、おじさんとか甥とかと呼ぶしかないんだろう。唯一名前があるのは、カワウソの息子のポートリーだけ。さすがに、父親が「息子」と呼ぶのはおかしいからだろう。おじさんが甥を「甥」と呼ぶのも変だが、幸いにもそういう場面はなかった。原文でも単純に、モグラはmoleだし、カワウソはotterだ。だから登場人物はあまり増えない。イタチはたくさん出てくるが、その他大勢の役柄なので、いちいち名前などない。

さて、これはタイトルに「こがらし」とあるように、川べの冬の物語で、大雪の夜、緊急の用事でネズミさんのところに行こうとしたモグラくんが、そのまま行方不明になってしまった。モグラくんの運命はいかに!というわけで、ちょっと覗き見するだけのつもりが、そのまま読む羽目に陥った。

登場する動物たちの特徴はいうに及ばず、ストーリー展開や川べのコミュニティの雰囲気など、グレアムが書いたとしか思えないほど見事な続編で、とても面白かった。むしろこの続編のほうが、テンポがよくて面白いといえるかもしれない。しかし、それはオリジナルがあってこそのことだから、どちらが優れているとはいえないだろう。

この物語を読むといつも感じるのは、動物たちのサイズは一体どうなっているんだろう?ということ。擬人化されているので、そんなことを考えるだけおかしいのだが、彼らの中で唯一人間社会と接触を持つヒキガエルのサイズがどうしても不思議でしょうがない。人間の服を奪って着るし、人間の自転車や飛行機にも乗るし、はては人間の女性と抱き合ったりもするのだから、どう考えても、とんでもないサイズのお化け蛙だ。それが荒唐無稽で面白いのだけれど、このヒキガエルはしょうがない奴で、いつでも皆を困らせるのだが、どうしても憎めないキャラクターとして描かれており、彼がいなくなると、<原始の森>は全然面白くなくなるといった具合。

しかし、私が一番好きなキャラクターはモグラくんだ。いつもモグラくんの所から話が始まるので、主人公はモグラくんなのだろうと思うのだけど、その割に目立たず、地味なキャラだ。けれども、<原始の森>のコミュニティには欠かせない存在で、モグラくんなしでは、この物語は成り立たないだろう。これは他のキャラも同様だが、モグラくんの真面目さが、ヒキガエルの馬鹿さ加減も救っているし、彼らの絆を強く結び付けているような気がする。

モグラくんの家の様子を読んでいると、なんとなくJ.R.R.トールキンの『ホビットの冒険』を思い出す。自分はけして冒険など好きではないし、暖かな家の中でおいしいものを食べて暮らしていたいのに、どういうわけか、冒険にかり出されてしまう。嫌だとか困ったとか思いながらも、その中心になってしまうのが、まさにホビットのビルボ・バギンズだ。この物語のモグラくんもそのくちで、そういったモグラくんのお人好しさが実にほほえましい。

2003年12月12日(金)
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