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 The Yearling/Marjorie Kinnan Rawlings

映画「子鹿物語」の原作。
4月、春たけなわのアメリカの開拓地。
主人公のジョディは、一家でただ一人元気に育った男の子。他の子ども達は、すべて赤ん坊の時に死んでしまったのだ。父親ペニー・バクスターがそこに住むようになったいきさつやら、子ども達が死ぬいきさつやら、あまり陽気な話とは言えない。

この話はジョディと子鹿の愛情物語だが、いかにかわいらしい動物でも、農作物を荒らすものは、害獣として処置しなくてはならない。開拓地は人間にとっても動物にとっても厳しいところなのである。

ところでこの本、会話がずいぶんなまってるよと思ったら、舞台はフロリダ。アメリカ南部である。なんとなく西部のイメージがあったのだけど、そういえばフロリダには固有の鹿がいたっけと思いだしたりして、認識を新たにした。内容的にけして明るい話ではないのだが、文章もあまり快活ではない。お父さんやお母さんのイメージも、映画とは全然違う。

ある日、ジョディと父親のペニーが凶暴なクマを退治に行くのだが、死闘を繰り広げた挙句、ペニーも怪我をし、犬のジュリアは瀕死の重症を負った。なのに家に帰ってみると、母親に「犬は死んじまって、クマは逃がしたってのかい?」といきなり言われる。母親なら普通、だいじょうぶか?と心配しないか?(^^;

その上、犬から目を離せないから、寝室で寝せてやるとペニーが言うと、「やめとくれよ!あたしは夕べほとんど眠れなかったんだから、今夜は寝せとくれよ!」と冷たく言われる。(それとも「やめてちょうだい!あたしは夕べちっとも眠れやしなかったんだから。今夜は寝せてちょうだい!」と訳すか?いや、悪いが全然違うイメージなのだ。)仕方がないので、父と息子は、ジョディの狭いベッドで一緒に寝る羽目になる。

そもそも父親と息子はげっそり痩せているのに、母親は体もたくましく、優しさのかけらもない。ええ?映画ではあんなにきれいで優しいお母さんだったのに。。。全然イメージが違うので、面食らってばかり。何にでも文句を言う。こんなお母さん嫌だー!

開拓地でたくましく生きる主人公一家だが、ある日お父さんがガラガラヘビに噛まれるという事件が起こる。ええっ!そんなのあったっけ?という感じだが、噛まれていたんですね。(^^;

その時に応急処置として、雌鹿を殺し、その肝臓で蛇の毒を吸いだすという処置をしたおかげで、一命を取りとめるのだ。そして、やっと出てきた「子鹿」。「子鹿物語」の「子鹿」が出てくるまでに、200ページ。延々と南部訛りで、開拓地の日常生活をを読まされる。

子鹿を飼うことには、もちろん反対するお母さん。でもこのときばかりは、お父さんが「これはジョディのものだ」と強く言ってくれて、ジョディは子鹿を飼うことを許されることになるのだが・・・。

やっと本筋に入ったと思ったら、子鹿はただジョディと遊んでいるばかりで、「友達ができてよかったね、ジョディ!」的雰囲気。ジョディと親しかった近所(と言ってもかなり遠い)のフォレスター家の息子フォッダー・ウィングが、子鹿に「フラッグ」という名前を残して死んでしまったり、狼が群れになって襲ってきたり、お父さんが目の敵にしていた巨大クマのオールド・スリューフットを倒したり、クリスマスに知り合いの家が家事で焼けてしまったり、話は子鹿にはあまり関係ないところで進んでいく。

1年経ち、また春が巡ってきて、子鹿が1歳になろうという頃、作物が何者かに荒らされる。足跡から、それがフラッグの仕業だとわかり、ジョディは必死にフラッグをかばおうとするのだが、フラッグにしてみれば、そんなことはどこ吹く風。

事態は、とうとうフラッグを始末しなくてはならないところまできてしまい、ジョディは泣く泣くフラッグを銃で撃つのだが、大好きだった父親の顔も見たくないし、家にも帰りたくないと思い、家出をする。

絶望とひもじさばかりの辛い、辛い旅。最後にふと思い直し家に帰るのだが、大好きな父親との再会の場面では胸が熱くなる。リューマチで動けない父親の姿を見て、自分が一家を支えていかなければならないと決意するジョディ。辛い旅の果てに、ジョディは少年から脱して、大人の男へと変わりつつあったのだ。

子鹿のエピソードも胸を打つが、父親のクマとの対決が一番すごかった。スリルとアドベンチャーに満ちて、はらはら、ドキドキした。結局この話は、様々な大自然との過酷な闘いを通じて、ジョディが大人になっていく様子を描いたもので、映画では最も胸を打つであろう子鹿のエピソードをメインにしているが、どのエピソードもそれぞれに胸を打つ。母親の厳しさも、次第にそうしなくては生きて行けないのだということがわかってくると、逆に温かい気持ちにもなる。


2003年04月29日(火)
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