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 クレイジーインアラバマ/マーク・チャイルドレス

<カバーより>
●ルシールの章
夫に虐待されながらも、女優への夢を抱き続けた33歳の美貌の主婦ルシールに、ついにチャンスが巡ってきた。ハリウッドのエージェントから「人気番組のオーディションを受けないか」と連絡が入ったのだ。一気に舞い上がったルシールは、理解のない夫を毒殺、小さな子供たちをアラバマに残して、西へ西へと痛快な逃避行を繰り広げる・・・。

●ピージョーの章
立派な葬儀屋になることを夢見る12歳のピージョー少年に、突如異変が起きた。叔母のルシールがやってきて、自分だけに夫殺しの一部始終を打ち明け、去ってしまったのだ。おまけに、尊敬する葬儀屋のおじさんに引き取られたピージョーは、街で起こった大騒動に巻き込まれてしまう・・・。白人と黒人、善と悪、見えるものと見えないものを心の目で追いながら成長していく、思春期の少年の物語。


この本は、上に示したように、ピージョー少年の一人称の語りと、ルシールの視点から見た三人称の語りとが交互に繰り返される。
この中に描かれるテーマは盛りだくさんで、まずピージョーの方では、ハーパー・リーの『アラバマ物語』にあるような、人種差別をメインテーマとし、社会的な問題を描いていく。一方ルシールのほうのテーマは狂気。一見何の関係もないテーマのようだが、人種差別というのも人間の狂気の一種ではないだろうか。

少年の目から見た世の中の矛盾や不正は、それがまかり通ってしまう現実を目の当たりにして、読者も少年の純粋な心と同化し、やるせない思いにとらわれる。ピージョーの尊敬するおじさんの言った言葉に胸を打たれる。「子供のほうが正しいことをやりやすい」。大人は様々なしがらみに押しつぶされ、正しいと思っていることでも、手を出せないことがある。世間の悪を見て見ぬふりをせざるを得ないことがあるのだと、おじさんは自らのやるせなさを訴えたのだ。そういった無念さに、読んでいるほうも胸のつぶれる思いがした。

一方ルシールのほうは、殺害した夫の首を切断し、それをタッパーに入れて持ち歩くというクレイジーな旅をする。殺人という重罪を犯しているルシールだが、これがなぜか憎めないキャラクターで、つかまって裁判にかけられているときも、ルシールのファンが大勢登場したほどなのだ。彼女の逃亡ルートが、フーバーダムからラスベガス、ロサンゼルス、サンフランシスコとなっているので、これもまた個人的に入り込んでしまった。いつしか、無事に逃げおおせてくれと、ルシールを応援している自分がいる。

さまざまなテーマ、出来事が重なりながらも、全く滞りなく一気に読ませてしまうこの作家の手腕は素晴らしい。ハーパー・リーの『アラバマ物語』も名作だが、それをさらにパワフルにしたような感じ。そして、この本で注目すべきことは、翻訳がいいということ。登場人物が多く、年齢や性別、人種も多岐に渡っているのに、会話の部分などで不自然なところは全くなかった。それもこの本を一気に読めた大きな要因だろうと思う。




2002年09月22日(日)
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