わたしたちは橋の上にいた。
川の水は澄んでいて川底がみえていた。 深いところもあり、あさいところもあり。 さっき渡った橋では、 わたしは、飛び込むことができた。 彼女はそんなわたしを ただたちつくしてみていた。 その目の奥に羨望が感じられた。 わたしは水の中でとても得意げだった。
しかし、 この橋の上からは どうしても 飛び込めない。 こわい。 こわくて仕方がない。
その時 彼女は飛び込んだ。 とても深い淵へ。
そんなことしたら死んじゃう!
彼女は淵のなかに消えて みえなくなった。 その時、 空から神様がおりてきて 彼女をもちあげた。
ああ。 よかった。 彼女は助かった。 飛び込める上に神様がついていた。 わたしは彼女を羨望をもってみていた。
でも、 わたしはとびこめない。 これでもいいや。 わたしはこれでいいや。 わたしはわたしの人生では ここまでしかできない。
わたしはあきらめた。 胸がきゅんとした。
それから、 わたしは彼女とお寺にいた。 彼女のことをとても親しく感じていて、 大好きだった。 彼女はその高台にあるお寺の裏から 墓場をぬけて、 山をくだって 幼稚園にいきたいらしい。 わたしもついていこうとおもった。
わたしたちは 自転車で墓場の中の細いけもの道をゆく。 霊がたくさんいて、 にぎやかで、 こわかった。
とおくの谷底に幼稚園がみえて、 子供達がプールでほのぼのと あそんでいるのがみえた。 あんな明るい場所が なんでこんな暗い場所の むこうにあるのだろう。
けもの道は下り坂にさしかかり、 とても気味の悪い 白い毛のはえた根っこがうねっていた。
もうだめ。 上でまってる。
わたしは、 彼女にそう告げて、 お寺の前でまつことにした。
お寺の前には、 霊がたくさんいた。 水をのもうとしたら、 水道から白く濁った水がでてきた。
心細くて淋しい。
そうおもったら 練乳に血がまじったような どろどろした液体で 目の前がいっぱいになって、 コンピューターのような 低い男の声で 言葉がやってきた。
言葉はわすれてしまったけれど。
人生のおわりのしっぽと、 今わたしのいるところがみえた。 そのあいだに、 とても悲しいことが あるような気分になった。
とても怖くなって 目が覚めた。 身体が汗でぐっしょりしていた。
今日は雨。 ベランダにでていたら、 最初の雨のひと粒が わたしにあたったような そんな気がした。
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