勉強が足りません。

 いつか林權澤監督の『祝祭』(1996年韓国)についてちょこっと触れたけど。
 『春香伝』(2000年韓国)もまた、素晴らしいです。
 劇場で観るチャンスを逃し、先日漸くビデオで観ることができました。
 北朝鮮製作版は何度も観たのですが、ストーリーは同じでもゼンゼン違う!
 韓国版は、ら、らぶしーんが…北朝鮮版にはなかった…。



 初めてパンソリを耳にしたのは、高校生の頃でした。
 当時本格的に朝鮮文学を学びたいと考え始めていた友人が、朝鮮語教師から借りたというパンソリのCDを聴いていたのです。
 忘れもしない、「春香伝」でした。
 真剣にCDからの声を追う友人の隣で、耳を傾けましたが…。
 全然ヒアリングできませんでした…。

 「春香伝」のストーリーは、何度も観た映画(1980年北朝鮮)で知っていたので、単語を拾い、なんとか筋は追えたけど…それにしても不甲斐ない。
 それでも人間の声の圧倒的な表現力に驚嘆した覚えがあります。

 卒業後はパンソリに触れる機会もなく、忘れかけていたものの、その後やはり林監督の『風の丘を越えて/西便制』(1994年韓国)が大ヒット。
 韓国の若者の間でも人気がなかったという伝統芸能パンソリが、この映画を機に俄かに脚光を浴びるようになったと聞きます。



 さて、映画『春香伝』。
 物語自体は、両班(貴族)の息子と芸妓の娘という身分違いの恋がテーマで、更に暗行御史(アメンオサ/王の直属の密使で、粗末な身なりをして国中を旅し、官吏の不正を正す…水戸黄門みたいな役職)が活躍するというストーリーなのですが。
 国唱人間文化財であるパンソリ詠唱者の「春香伝」のライブ映像から始まり、映像もまた台詞も、その唄を中心に進行します。
 パンソリの映像化、とでも云うのでしょうか。
 特に主人公の春香が拷問を受けるシーンでは、打たれる映像をただ観るよりも、その苦痛が聴く者に伝わります。ハンカチで目頭を押さえる観客の姿を観るまでもなく、春香にシンクロし叫び出しそうになりました。



 ワタシは普段、日本語でものを考えます。第一言語ってやつですね。
 日本で生まれ育った在日コリアンの殆どがそうだと思います。
 日本語の授業時間以外での日本語の使用を禁止されたハッキョ(学校)で12年間教育を受けたので、朝鮮語で話すのにもあまり苦労はしません。が、この朝鮮学校の朝鮮語というのはナカナカ曲者で、発音はまだしも、抑揚が北朝鮮で使われる朝鮮語、韓国で使われる朝鮮語(韓国語)とはかなり違います。イワユル在日朝鮮語です。
 そんなわけで、日本語で読み書きしたり喋ったりする方が、朝鮮語よりラクチンだというワタシは、ことあるごとに、美しく豊かな日本語の表現力に感動するのです。

 ともかく、日本語を第一言語とし、その美しさと表現の豊かさは世界に並ぶものはないと考えていたワタシは、この映画を観てとても衝撃を受けました。
 朝鮮語の節回しの、機知に富んだ美しさ!
 恥ずかしながら、今回もちゃんと正確に聞き取ったとは云えず、耳で聞き取った言葉と字幕で漸く大意を理解できる程度でしたが、知的な言葉遊びや、瑞々しく美しい表現の数々に、ただ驚き、己の無知を恥じる他ありませんでした。
 ワタシの朝鮮語の語彙が、本国では日常会話レベルだろうことは認識していたつもりでしたが、甘かった。
 幼児レベルなんじゃないだろうか?それ以下かも知れない。
 何も知らない。朝鮮語の奥深さも、美しさも、何も。参ったなぁ。

 勿論、国唱人間文化財チョ・サンヒョン氏の独唱は素晴らしいという他ないということを付け加えておきましょう。
 あの壮絶な詠唱を、なんて表現していいのか皆目わからん。

 それにしても、第一言語である日本語ですら語彙が乏しく文章力もないワタシが何を書いても説得力ゼロで参っちゃう。まだまだ勉強が足りません。
2003年03月08日(土)

メイテイノテイ / チドリアシ

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