petit aqua vita
日頃のつぶやきやら、たまに小ネタやら…

2003年03月26日(水) 『休まぬ翼 2』(三上小ネタ)

サッカー部の大半が探している彼を、探す気もなかった水野が見つけてしまった。驚きに足を止めると、向こうも驚いたらしく目を丸くしていたが、一瞬後、顔をしかめた。
…まるで、会いたくなかった者に会ってしまった、という風に。
やっぱり、という思いとともに、やはり面白くない。

「…何やってんだよ、アンタ」
「ああ?」

三上は、ボストンバッグを担いだまま、スタスタと近づいてくる。
気圧される理由は何もないはずなのに、水野は居心地の悪い圧迫感を感じた。

「部のみんなが、アンタの事探してる。早く行ってやれよ。アンタが行かないと、追い出し会が始まらないんだってさ」
「……おまえは?」
「…俺は…別に」
藤代に巻き込まれて、適当に歩いていたらアンタが寮から出てきただけさ。
そう応えると、三上はニヤリと笑った。
――いつもの人を見下すそれではなく、FKの時に見せる、あの顔だ。

「――なら、お前は俺を探しに来た訳じゃないんだな?」
そう問われて、素直に応える水野ではない事を知っていて、わざと問い掛けてみせる。
「…だったらどうだってんだよ」
ぶっきらぼうな水野の返事に、三上はやはり笑った。
「―なら、頼む。このまま俺を見つけなかったことにしてくれ」

予想外の答えに、水野は固まって。三上はそんな彼の様子に、くすくすと笑った。ピッチに立てば、これ以上ないくらいのゲームメイクをしてみせる彼なのに、それ以外では何と不器用な少年であることか。そのギャップが、おかしくて。
普段、ずうずうしい程に図太いチームメイト達を見慣れているせいか、その姿は余計に新鮮だった。

訳が分からないままに三上に笑われて、水野は顔が熱くなるのを感じた。たぶん、もう真っ赤になっているだろう事も、想像がつく。
「何笑ってんだよっ!」
水野の様子に、三上は何とか笑いをおさめた。
「あー、ワリワリ。…んじゃな。さっき言ったこと、頼むわ」

三上はくるりと踵を返すと、そのままスタスタと水野の前を立ち去りかけた。

「待てよ」

思わず、三上の手を掴む。
「…んだよ」
さっきの笑みとは違う、面倒くさそうな目で、睨み返された。
「皆…待ってるって言ったろ。――行かないのかよ」
「……ああ。行かねーよ」

三上のさらりとした答えに、先程、騒ぎながらも三上を探そうと動いていた藤代たちの姿を思い出す。こんなに性格が悪いくせに、何故かあんなに慕われていて。……なのに、三上はあっさりそれを切り捨てるような言い方をする。
「何で……っ!」
「俺は――ここから、あいつらと同じ道を行く訳じゃねーから」

噛み付くようにくってかかった水野に返されたのは、皮肉げなものでもない、見下すものでもない、先程のからかうものでもない…何かを決めた人の、表情だった。

「同じ道を行かないって…何だよ。アンタは、渋沢と同じ大学に行って、サッカー続けるはずじゃ……」
「ストップ」

三上は、水野に掴まれた手を振り払い、ポン、と水野の胸を叩いた。

「ここから先が聞きたいのなら、交換条件だ」

風がざわめき、三上の黒髪と、水野の薄茶の髪を揺らす。

「もし聞くんなら、俺に会ったことは誰にも話すな。聞く気がないんなら、とっとと帰れ」

お前次第だ――と。
三上は、水野から目をそらさずに、言った。


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