2003年03月07日(金) |
『PHOTOGRAPH 2』(ル神小ネタ) |
つきぬけそうな、しかしくっきりと鮮やかに青い空。 気温は高いけど、どこかサラリとしているイタリアの夏は、この空のように陽気で鮮やかだ。 大家夫妻に、その印象を、下手くそなイタリア語で伝えたら、夫妻はにっこりと微笑んで、丁寧な英語で、こう言った。(まだイタリア語で説明されても分からなかったからな) 『イタリア人は、この空の色を何よりも愛していて、その気持ちのままにこう言うのだよ。「アズーロ」と。そして、我々を代表するジョカトーレ ディ カルチョのことを、「アズーリ」と呼ぶのさ。「アズーロ」は、イタリアの色なんだ』
そんなイタリアの空の下で、日本人の俺は「独逸の至宝」ことルディ=エリックと昼飯をかきこんでいる。なんとなくミスマッチで、何か笑えた。 「あ、ソウダ。お前ニ手紙が来ていたぞ。シュペーマン氏から渡しておいてくレと言って、頼まれていたんダ」 …おまけに、喋ってるのが日本語なんだから、なんだかなぁ。(笑) ルディはエアメールを俺の前にすべらせた。 「…ん?大塚からじゃん」 差出人は大塚になっていた。…けど、これ赤堀の字だぞ。 「写真でも入っているんじゃないカ?手紙だけにしては、持った感触が固かったぞ」 「写真〜?何だよ今ごろ」 新生掛高サッカー部の報告でもしてくる気かね。…別に心配はしてないんだけどな。あいつらなら、俺や久保が残したスタイルにこだわらず、自分達のサッカーで、掛川のサッカーをするだろうから。 好奇心のまま、ベリベリと手紙の端っこを破る。 …あ、やべ。封筒の真ん中まで変に破れそうだ。中の手紙まで破れたかな。 「不器用者め。貸セ」 「あ、俺の手紙だぞ!」 ひょい、とルディは俺の手から手紙を奪い取り、器用にペリペリと封筒の端だけを綺麗にやぶり、中身を取り出した。 「ホラ、やっぱり手紙と写真も入って………っっ!!」
ルディは、その写真を目にして、固まる。 「こら、俺のだろーが。よこせ」 半ば強引に奪い取ろうとして、写真はルディの手に一枚だけ残して後はバラバラとテーブルの上に散らばった。……何だ。俺らが一年の時の写真じゃん。昼休みだったり、部活中だったり。あー、これなんか、新設校だってんで道具がなくて、サッカーのペナルティエリアの線をひくのに、一から距離測って大変だったやつだ。 しかしなんだってこんなものが今ごろ……。俺は、一枚の写真を握り締めて動かないルディを放っておいて、俺は手紙を読むことにした。やっぱり丁寧な、赤堀の字だった。
〔神谷、元気でやってる? こっちは、…まぁ、相変わらずかな。みんな、サッカーしてるよ。 神谷がいなくなってから、新しい僕たちのスタイルを探してみんながんばってる。「俺たちがしているからこその、掛高のサッカーなんだから、以前のパターンに捕らわれるな!」…なんて、この前白石が怒鳴っていたよ。結構良い先輩になってきたよね。 平松は、大分キャプテンとして、チームの事を考えるようになってきた。以前は少しワガママで自分勝手なところがあったけど、やっぱり、キャプテンマークをつけると変わってくるね。(でも独り言をブツブツやる癖は変わってないよん♪ばーい、矢野) 田仲は、ゴール前の聖域を見出す、作り出す力はますます強くなっている。でも「本能」で動いてるっぽくて、メンタルは相変わらず不安定。 逆に安定しているのは馬掘かな。このところ視野が広くなったよ。馬掘と新田と佐々木の連繋がすごく良くなってる。 新田はラインをしっかりと保持してくれるから、僕も動きやすい。 佐々木は、新田だけじゃなくて、平松や馬掘とのコンビネーションも考えているようだ。 大塚と僕もがんばってるよ。…変わったのは、以前よりも、攻撃に加わる事が多くなったかな。大砲の田仲がいて、平松がいて、佐々木がいて、大塚、そしてオーバーラップして僕。それからミドルシュートを狙える馬掘。…下手すると、今までで一番攻撃的なチームになるかもしれない。(笑) 矢野は、ここで意外な才能を発揮してる。後輩を指導、育成していくのが上手いんだ。得意の喋りで、気がついたら、一年生たちをノセて練習している。うちの唯一の弱点だった層の薄さも、少しは安心できるものになるかもしれない。
そうそう、矢野といえば、一年の頃に写真にこっていただろう?写真の整理をしていたら、現像していないフィルムが出てきて、現像したら僕たちの一年生の頃の写真だったんだそうだ。 …それで、「久保も写ってるし、特別サービスだ」って、僕たち三年生の人数分、全部焼き増ししてくれた。(あのドケチがだぜ!俺は今でも信じられん(大塚)) だから、同封した写真は神谷のぶんだよ。神谷が写ってない写真もあるのは、そういうこと。久保の写真もあるから、たぶんハンスたちに見せたら喜ぶんじゃないかな?
それじゃあ、この辺で。 9月がきて、もうすぐ僕たちの最後の冬がはじまる。 どんな結果になろうと、この掛川高校に入ってからの三年間を、誇れるようなものにしたい。走れるだけ、走りぬこうと思う。 じゃあ、神谷、体に気をつけて。今度、掛川茶でも贈るよ。そろそろ飲みたいんじゃないかな。
……矢野が、何か書きたがってる。封筒の宛名も書いたし、切手も用意したから、矢野にこの手紙の投函も任せてしまおう。僕、磯貝先生に呼ばれてるんだ。
おっは――――――♪ 神谷、元気か?! 同封した写真の焼き増し代は、俺のおごりだ!もらっとけ! 渡欧記念の特別サービスで、ある写真も同封した。どうするかはお前に任せる。ネガは久保がオシャカにしたから、もうそれ一枚しか残ってないスーパープレミアムものだぜ!! 最近後輩を手玉にして動かすの楽しくてさぁー♪今日も元気に一年生をシゴいてくるわvvじゃな♪〕
……手紙はこれで終わり。 皆の近況には満足したし、お茶の差し入れはマジ助かる。さすが、分かってるよなぁ、赤堀。 それにしても、矢野が送ったプレミアム写真って何だ? 多分、久保の写真だろうけど…………。
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