2003年02月24日(月) |
『お楽しみはこれから』(独逸小ネタ) |
「じゃーなっ!ハンス、また後で!!」 「18:00に空港だからね!遅れないでよ、ルディ!」 「心配するな、お前が来なくても俺がしっかりカミヤをエスコートするから」 「…あの運転でか?カイゼル。せっかく神谷がドイツに足を伸ばしてくれるんだ。印象を悪くされては困る」 「…う、ウルサイ!貴族は自分で運転なぞしないんだ!」 「バカイゼル!!アツシに何かしたらただじゃおかないぞ〜〜っっ!」 「誰がバカイゼルだヒヨコ頭!!」 「う〜わ、低次元」 「ああもう、ヴィリー、カイゼルをどっか隔離しておいてくれる?ルディ、急がないと、カミヤが好きなクロツカイムのバームクーヘン売り切れるよ!!」 「ああっしまった、行ってくる!!」 「ハンス、私生活になるとまるきり司令搭だよねー」 「…言わないでよ…マテウス。自覚はしてるけど」
独逸代表チームのロッカー室。今日は若者勢がとりわけ騒がしい。 「おい、今ルディ坊やがえらい勢いですっ飛んでったが、何事だ?」 いつもなら呼ばなくてもDFラインの事でつっかかって来るのに。と、代表キャプテン、カーンがロッカー室に入るなりバラックに尋ねた。 「…さぁ?でもルディばかりじゃなくて、今日は若手が妙に浮かれてるんだよ」 やれ飲み物はどこのビールが良いだの、それは邪道だの、ワイン蔵があるんだから5,6本くすねて来いだの、これから宴会でも始まろうかという勢いだ。
「おい、ヴィリー。今日は誰かの誕生日か?」 チームが同じなので気安いヴィリーに声をかけると、ヴィリーははじかれたように振り返った。 「あ…すみませんキャプテン。騒がしくして」 「いや、トレーニングは終わっているのだから構わない。…何の騒ぎだ?」 答えようとヴィリーが口を開きかけると、彼らの下から、マテウスがひょっこりと顔を出した。 「あのね、カミヤが来るんだよ♪」 僕が頼んでおいたパソコンソフト持ってきてくれるんだvv …と、いつもは気難しい天才少年までが早口でまくしたてる。 「いやだからカミヤというのは……」 「とんでもなく無礼な東洋の猿だ。ルディと色違いの」 「その猿に水ブッかけられたのお前じゃん」 「えー、俺見たかったなー。…あ、でもあいつがルディと色違いってのは正解」 「やかましい、ガイル、くだらん事を覚えてるんじゃない!」 「見物だったぜー、コイツの呆然としたバカ顔!…うぉっと」 「こら、カイゼル!ロッカー室で暴れるんじゃない!」 「離せヴィリー、…ゲイル、ガイル、逃げるな!」 「…カイゼルって、けっこう尻にしかれてる?」 「普段はそうみたい。でも押し倒されたらヴィリーが流されてるって感じ?」 「マテウス!!いらん事をハインツに吹き込むんじゃないっっ!!」 わあわあぎゃあぎゃあ。 とどまるところを知らない若者パワーに、世界屈指のキャプテン様が、咆えた。
「喧しい!黙れクズ共!!」
…フィールドの端まで響くすんばらしい罵声は効果覿面で、若者たちはそのまま凍り付く。カーンは、最も最適な人物にこの騒ぎの説明を求めた。 「……どういうことだ。ハンス」 あああやっぱり僕な訳ね、と内心ため息をつきつつ、ハンスは前に進み出る。 「日本の友達が…ドイツに来るんです。彼はカミヤといって、サッカーをしてるんですけど、すばらしいMFなんです!彼は今度、チームの契約や宿舎の下見でイタリアに来ていて、その帰りに今日と明日、ドイツに立寄るそうなので」 シュナイダーが思わず吹き出した。 「それで今夜は歓迎パーティーか?随分な浮かれようだな」 「スイマセン……」 「……カミヤ……?ああ、あいつか…?」 「知っているのか、オリー」 「直接プレーは見たことがないが、W杯のホテルの飲み会でいただろう、ノイビル」 「…ああ!ルディ坊やの腹違いの兄弟だろう?日本人の」 とんでもない認識の仕方だが、しかし正しい。…と、神谷を知る若手は思った。そしてルディがここにいなくて良かった、とも。
「それで?イタリアに留学に?」 話題に入りたくて興味深々だったクローゼが顔を出す。 「いえ。プロ契約で」 「C?B?」 「Aだそうです。セリエA。まだチーム名は聞いていないけど」 ヒュウっと、口笛を吹いたのはハマン。 「で…、何処でやるんだ?歓迎パーティー」 「場所が広いから、カイゼルの別荘で……と」 答えたヴィリーが、代表レギュラー勢の顔を見回して、顔をひきつらせた。まさか来る気か?! 頼りのキャプテン様は、上機嫌で着替え始めている。 「そうか……あいつか……確か、ビアホフのファンでもあったな。声をかけておくか」 めちゃめちゃ来る気だ。
今夜のカミヤの歓迎パーティーは、かなりの豪華メンバーになりそうである。
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