2003年02月19日(水) |
『決戦は金曜日4』(オガヒカ小ネタ) |
何か派手にギャンギャンやってるなぁ、と思ったら、緒方さんは容赦なくボタンを押して電話を切ってしまった。「ったく、あのバカは……!」なんてブツブツ言いながら、テレビの前のソファに乱暴に座る。芦原さんのペースに、馬鹿にしつつも引きずられてるよ。何かカワイイよなぁ。 「お待たせ〜。はい、エスプレッソ」 「ああ。やっとメーカーの使い方覚えたんだな」 「しょーがないだろー。エスプレッソなんかここでしか入れないんだし。…はい、今日はデザート付きな」
…あ、固まった。
「…進藤」 「ん?」 「俺が甘いもの嫌いなのは、知ってるよな?」 「うん」 「…で、コレは何だ」 「だって今日バレンタインだしー。俺の気持ち?」 「……………………」
…あのね。別にたかだかデザートなんだから、そんな妙な顔で悩まないでくれるかな。そりゃ、手抜きかもしれないけど、(材料はコンビニで買ったから)味は保障するって。この組み合わせで、ヘンなものになる訳がないんだし。(ゴメン。量が少なかったから味見してない)
「とりあえず、一口だけでも食べてよね。それとも、俺の気持ちなんて、受け取る価値ない?」 平気そうに言ってるけど、実は内心すごく怖い。これでつっ返されたら、時間がかかろうとなんだろうと、走って家まで帰りたい気分。泣いてすがって、緒方さんのジャマになることだけは、できないから。 「……んな訳ねーだろーが。だから、そんな顔するな、ヒカル」 …今、初めて名前で呼んでくれた? 緒方さんがくれたのは、少し柔らかい低い声と、それで紡がれた俺の名前と、唇に、触れるだけのキス。 最後に、碁石を弄ぶ大きくて骨ばった手で、俺の髪をぐしゃぐしゃとかきまわした。
そして、緒方さんはスプーンの先にデザートを少しすくって、食べてくれた。 「……どう?」 緒方さんは何も言わずに、二口目を口にする。 「…ん。悪くない。これくらいなら食える」 「よかったぁぁぁぁ。上にかけてあるのがね、無糖のココアパウダーだから、そんなに甘くならない筈なんだ!」 ああよかった。俺はホッとして、カフェオレをひとくち飲んだ。
「ティラミスに似てるが……違うな。何だコレ?」 「でしょ?緒方さん、前にイタリアンレストランに行った時に、ティラミスは食べてたから……こういうのなら大丈夫かなって。でもよかったー。食べてくれて。それでね…」
あまり突っ込まれないように早口で別の話題にもっていこうとしたけれど、流石、緒方二冠。大事な死活は見逃さない。 「ヒカル」 ずい、と顔が近づいてくる。「教えろ」と無言の圧力。 えーと………材料の出所が出所なんで、あまり言いたくなかったんだけどなぁ……。
「『なんちゃってティラミスもどき7−11風』」 「はぁ?」
「あのさ、今日に限ってお金持ってなくて……持ってたら、ビターチョコとか、デパートで良いの買ったんだよ?…でもさ、千円しかなかったし、緒方さんの家に来るのに電車賃もあったし……でも、せっかくのバレンタインだから、何か、あげたかったんだよ」 せっかく、想いを形にして贈る日なのだから。 「それで、甘いもの嫌いの緒方さんが、ティラミスなら食べてたのを思い出してね。…でも、コンビニのって甘いからさ。だから、柔らかいレアチーズケーキ買って、さっきコーヒー用意してる時に、器に盛って、ココアをふりかけたんだ。……それだけ」
ごめんね、ちゃんとしたの、あげられなくて。安物で、ごめん。 そう思ってうつむいたら、頬に手が添えられて、上を向かされた。 口づけられて、感じる。ほのかに甘いレアチーズと、苦いココアの味。
「ココアは、ここに置いてあるのを使ったのか?」 「……んっ…うん……ここにあるのは……砂糖…入ってないし…」
緒方さんは、俺に口づけている合間に、吐息だけで、くすくすと笑ってる。唇に、その感触が伝わる。 「気に入ったから…今度買いに行こうと思ったんだが……そんなに手軽に手に入るんなら、また作ってもらおう」 「ん……い……いよ………ひゃうっ!」 いつのまにか大きな手は俺の肌を這いまわり、濡れた舌が、耳をなぞる。その音だけで、ゾクゾクするのを、止められない。
「お前の気持ちは確かに味合わせてもらったからな……今度は、お前が俺を味わえばイイ」 ゆっくりと、緒方さんの舌が首筋を舐める。うそつき。俺を味わってるのは、緒方さんじゃないか。反論したいけど、…もう、意味不明の声にしかならない。
「存分に味わいな」
その低い声に、俺はびくりとして、緒方さんの肩に軽く噛みついた。広い肩、厚い胸、しなやかな腕、大きな手、長い指…そして脚。それから……いちばん、熱いソコ。 味わって、いいの?カンジテ、イイノ? 緒方さんの体………そして、心。
それを許すかのように、俺は緒方さんに抱きしめられて。 俺は嬉しくなって、自分から、キスをしかけた。
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