椰子の実日記【JOYWOW】
2007年04月01日(日)
明治の風情がビキニで泡となる
仲田定之助氏『明治商売往来』(ちくま学芸文庫)を愛読 している。 明治にあった商売のあれこれを、実体験のエピソードと 共に紹介してくださっている好読み物なのだ。
例えば、「甘酒屋」の項では
-------------------------------------------------------- 水天宮の縁日や、人形町の夜店を冷やかしに行ったついでに、 わたしはよくこの店に寄っては、大きな湯呑に入ったあの 白いどろっとした液体の中におろし生姜を入れて、甘酸っぱい ような味を咽喉に流しこむのが好きだった。この明治の庶民的 な甘党の店を高村光太郎は「人形町」という詩の中にうたって いたが、もう今は廃業してしまったようである。 そこは角店だったので、その横通りを甘酒屋横町と呼んでいたが、 尾張屋の店がなくなったので、明治座通りという名に変ってし まった。 ---------------------------------------------------------
という具合。そうか、明治座通りって、そういう物語が しみこんでいるんだ、と、想像が飛んで楽しい。
ふんわかした気持ちで散歩がてら近所のスーパーへ行くと、 ビキニ水着の上にバスタオルをはおっただけの娘たちと その仲間達がざらつく声で騒いでおり、風情の一つもない。 普段は静かな田舎の町が、そろそろこの陽気に誘われて 観光客を集め始めたようである。あわてて店を出る。 明治は本当に遥か彼方に飛んで行ってしまった。
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