いきなり、顔も知らぬ 名も名乗らぬ人間から罵声をあびせられる、 こともある。 それが私のアルバイト。 己の失言で裁判になっちゃったりする ことも可能性としてはある。 そんなバイト。
なんども辞めようと思いましたが、なんだかんだで七年も続けている。 私の生活リズムにあっていることが一番の要因ですが、 結局はおもしろいということもあります。
はったりもあるのでしょうが、罵声の元となる生々しい本物の怒り。 腋の下から滝汗がジョージョー。 指が細かく震えてきます。 口をはさめば何倍もの怒号。 謝れば居丈高になるし、黙っていれば 「聴いてんのか!!!!!」 だし、 なのに、この人が何にこんなに怒っているのか、 この人だれなのか、うちの会社とどんな関係があるのか、 10分たってもまだわからない。
そう、ただ怒っているひとの話を、 「はい、はい。そうですか、申し訳ございません。」 と聴いているだけなら、あの怒りの波動に慣れさえすれば、 お茶を飲みながらでも、鼻をほじりながらでもできるのですが、 一応お仕事としては、なんとかこの人の 用件 を聞き出さねばなりません。 ここが難しいの。 まあ、言いたいことだけ言って、ガチャンと相手が電話を切ってしまえばそれまで。 でも彼らの怒りはたいてい、 要求と是正 から出ているので、そんな簡単に切ってくれない。 謝り、なだめすかし、ときに黙り込み、うなずき、同情し、そしてとにかく困って、 必死に脳を全開でグルグルさせているうちに、 ポツポツと小出しに、 時にわざと聴き取れないくらい早口で吐き出すように、 名前や電話番号 (この二つさえ聞き出せれば勝ったも同然。ヨッシャーと拳に力も入ります。そして怒り人はたいてい番号非通知でかけてくる。) そもそもの用件を語りはじめ、 最後に、 「あんなに興奮して悪かったね。あんたに言ってもしょうがないことは分かっているんだけどさ。」 なんてしおらしい言葉でも飛び出したら、 フシューっと全身の力も抜けるってもんです。 私の完全勝利。
ニュースやワイドショーなどをみると、想像するよりも多くの人々が暴力ではなく、 争ったり、激しく憎みあったり、訴えあったりしています。 私のアルバイトは、そんな争いの発端であったり、矢面最前線だったりするのです。 実際の自分のまわりは、たいていは好きなことをやって他の人々に迷惑かけず口出さず、なので、 こういうことがあるたびに、 「これが世間か・・・」 と覗き見気分もあり面白いのです。
そうはいっても自分は悪くないのに、怒鳴られたり謝ったりしているその時間は、 もちろん全然面白くないし、すんごいストレスです。 ただそんな激しいものは2〜3ヶ月に1回、私はひきがいいので、半年に1回くらいだから続けていられるのです。 聞くところによると、毎日そんな電話ばかり受けている本社の苦情係りはたいてい、数年で身体を壊すそうです。 激しい怒りの電話の中には、どす黒い悪意のオーラもあるからね。 私も口がまわらないときがあるのは、話したくないというストレスなのかもしれません。 晩酌の量が増えたのは間違いありません。
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