どこの誰だったかは分からない。 けれど、自分では決してお金を出して買ったりしないものであるからには、 いつか、誰かにもらったものに違いない。 くれた人よ、すまない。 ものからして、なにかのお礼?
しかしですね、このピンクのクレージュのタオルハンカチほど、 床の埃や髪の毛をとりこぼしなくキャッチしてくれる布はないのですよ。 まさに雑巾になるために生まれたハンカチ。 もう3年も使っているよ。
はじめは、ハンカチだった。 でも、鮮やかなフーシャピンクの色も、でっかくクレージュマークが縫い取りしてあるのも嫌だった。 ハンカチのような、センスを問われるおしゃれ小物として持ち歩きたくなかった。 えへへ、センスというより単に好みだね。 そこで布に厚みがあるので、台拭きにした。 なんとなく、誰かにもらったものだし、ハンカチにしては高いだろうし、 あまり汚いものを拭くのはどうかと思った。 それで、キッチンのシンクを拭くためにハンカチから降格。 が、とても吸水性が悪かった。 これはハンカチの時もチラリと感じていたが、嫌いだったので使用頻度が少なく、 あまり気にならなかった。 が、水まわりは毎日なんどもビジョビジョになる。 拭っても拭っても水滴が残るのでは、台拭きとして失格だ。 降格。
とうとう床まで降りてきた。 ここに至り、わたくしはまだ躊躇していた。 クレージュのハンカチを雑巾にするのはどんなものだろうか、と。 ブランドの魔力だろうか。 ハマトラ・ニュートラの呪いだろうか。 しかし、生涯一度として女子大生ルックもOLルックもしたことがなく、 親友のかたみである、ヴィトンのバケツ型バッグも、 「似合わな〜い。」 と数人に笑われ、自分でもそう思うので、いまは押入れの中である。 生涯一度のブランドバッグでのお出かけであった。
ハンカチなんかどうせ日本でライセンス生産しているのであろうし、 だいたい今時クレージュがなんぼのものであろうか。 この心のわだかまりを捨て去るために、どうだ、とばかりにまずトイレの床を拭いてみた。 とことん、これ以上汚いところはない、というところに落としてみた。 すると、高級ゆえに、みっちりと目のつまった、 それゆえに吸水がよくなかったベルベットのようなタオル地が、 濡らさなくてもまるで化学雑巾のように、 一度拭っただけで、ばっちり埃や髪の毛をつかんではなさない。
すごい。こんな雑巾はじめて。 あれから3年。 狭いトイレだけではもったいない。 と、よく洗って干したクレージュ雑巾は板の間の台所になくてはならないものです。 お前むかしは、ブランドのハンカチだったんだよね、と話し掛けながらも、 わたくしの愛は、むしろ雑巾である今のほうが深く真摯だ。
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