小咄
2010年07月16日(金)
「si, si, ¿enviar fotos de sus nuevas obras?」 電話の子機を片手に行儀悪くテーブルに腰掛けたエースは、サンジには理解できない外国の言葉で、身振り手振りを交えて話している。 コーヒーの入ったマグカップを彼の前に置けば、きゅっと眉を上げて“gracias”と口だけ動かしてみせる。俺にまでなんで?と思わず笑ってしまう。 昔、エースが旅先で出会った陶器職人との商談の電話。商談と言っても、これまでも何度も取引のあった相手だ。彼の新作の写真を送って貰える様に頼んで、おそらくは何点か仕入れる事になるだろう。 ふらりと入った土産物屋にあった陶器が気に入って、買い付けしたいと申し出たところ、直接交渉しろと、作者の工房を紹介されたそうだ。小さな工房の主はエースをすっかり気に入って、泊まっていたホテルをキャンセルさせてまで自分の家に招き、以来、ビジネスパートナーというよりは、年の離れた友人の様な付き合いをしている。 外国語を話しているエースは、男前度が上がっているような気がする。自分には理解できない言葉を操っているせいでそう感じるのかもしれないけど。普段、礼儀として彼の電話は聞かないようにしているのに、何を話しているか分からないから逆に気になって、耳をそばだてて少しでも聞き取ろうとしてしまう。 「es genial! Tengo muchas ganas de ver que!」 仕事の話しは終わったのか、エースの口調が砕けたものになった(ように聞こえた)。どうやら電話の相手が変わったようだ。madre、ママね。 世界のあちこちに知り合いのいるエースだが、この職人一家とは特に親しいらしく、最初の出会い以来、何度か訪ねている。娘がいるって言っていた。詳しくは聞かなかったけど、エースは結構わかりやすいのだ。あれは、多分何かあった。 彼から後ろめたさは感じなかったから、彼女自身とどうこうという事ではないだろうけど、例えば彼女がエースに惚れたとか、もしくはあの気に入られようだ、娘の婿にとか言われたか。 「...hola, ¿como esta usted?」 ああ、今度の相手はその彼女か、口調でわかる。とても親しげだけど、深入りしないよう、気を持たせないよう気遣ってる。やはり自分の感は当たっていたようだ。 細かい会話の内容はわからないけど、口調や雰囲気、ニュアンスで結構色々わかるもんだなあ、と関心する。もちろん事前に彼からこの家族の話を聞いていたのが大きいのだけれど。 まるで、彼氏の電話をいちいちチェックしてる女の子みたいだ。少々後ろめたい気持ちになって、サンジはキッチンに避難した。
冷蔵庫の中を覗いて明日の朝食の食材をチェックしていたら、電話を終えたエースがキッチンに入ってきた。 飲み終わったマグカップを受け取って、流しに置く。 「知らない言葉を話してるエースはかっこ良かった」 「そう?でもカタコトだよ」 「カタコトで20分も話せれば大したもんだよ」 「……なんか怒ってる?サンジ」 意外な事を言われて、まさか!と否定してから、サンジはちょっと考え込む。 「怒ってないけど……」 「ないけど?」 エースが腰を抱いて来る。その首に腕を廻して、ああ、そうか、と納得した。 「なんか、寂しかった。知らない人みたいで」 目を丸くしたエースは、すぐに破顔して、サンジの唇にキスをすると、ぎゅっと抱きしめてくれた。 「ごめんね」 こつんと額を合わせてくるエースに、サンジは笑って首を振ると、こっちの国に帰って来た恋人に、自分からキスを強請った。
亀更新なので、携帯でポチポチ打ってみた。 時差ボケが治らず、どうも不調ですが…。あ、スペイン語は翻訳機に頼りました(笑)。 なんか気持ち悪くなってきた…寝よう…。
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