St.A3Day連載小咄 完結したよ!
2010年05月29日(土)
「おっしゃ、おかゆ出来たぞ〜」 「うわ、うまそー」 エースが小さな土鍋のふたを開けると、ベッドの上で身体を起こしたサンジが目を輝かせた。 慣れたベッドでエースの腕の中、たっぷりと安らかな睡眠を取ったサンジは、顔色も随分良くなってエースを安心させた。ベッドから出る事はもちろん許さず、今朝はエースがキッチンに立って手ずからお粥を炊いた。昔、弟がはしかをやった時に作ってやったレシピだ。熱を出してふうふう言ってたくせに、白粥では物足りないという我が侭に、叩いた梅干しで味をつけ、卵を落とした代物だ。 れんげですくったおかゆをフーフーしてから、サンジの口元に差し出す。 「ほい、あーん」 「そんな重病人じゃないんだから」とか言いながら、サンジは少々照れながらも、おとなしく口を開く。 「うまーい!」 両手でほっぺたをおさえて、満面の笑みで言う。 「マジ?」 「うん、病院食の100倍旨い」 「まあ、俺の愛が目一杯詰まってるからな〜」 そう言いながら、エースも一口。うん、うまい、なんて自画自賛。 「エース、エプロン似合うな」 Tシャツの上にサンジの黒いエプロンをしたエースを見て、サンジは何が嬉しいんだかニコニコとご機嫌だ。二人で土鍋を空にして(半分はエースが食った)、エースはデザートのリンゴを剥き始める。 「ほい、うさぎさん〜」 「わ、上手!」 ひょこひょこと跳ねて来た(もちろんエースが動かしている)うさぎさんリンゴに唇にちゅっとキスをされて、サンジは声を上げて笑う。子供みたいなその笑顔に、少々無茶ではあったが、病院から連れ出してよかったと、しみじみ思うエースであった。 「…食べるの可哀想…」 「いやいや、お前の血肉となるならうさぎも本望だ」 わざと顰め面しい顔で言うエースにクスクス笑いながら、目の前のうさぎにぱくりと食いつく様子はヤバいくらい可愛い。猛烈に庇護欲を掻き立てられて、思わず黄色い頭を両手でかき混ぜて、まだしゃくしゃくとリンゴを咀嚼している唇の端にキスをした。
「こんなにのんびりしたの、久しぶりかも」 病院の食事に散々文句を言っていたサンジは、満足げに伸びをすると、ご機嫌なネコみたいにエースの肩に頭を擦り寄せる。 「サンジは働きっぱなしだったもんな」 「ふふふ、倒れてよかったかも」 「恐ろしい事言うなよ、俺は寿命が10年は縮まったぞ」 「ごめん」 上目遣いで見上げてくる、長い睫毛に縁取られた青い目にうっとりと見とれながら、引き寄せられる様に顔を寄せる。ピンク色の唇に、まさに触れようとしたその時、玄関の呼び鈴が鳴った。 二人は思わず間近で目を見合わせる。 「――――来たか…」 ため息まじりに言うエースに、サンジがへにゃんと眉尻を下げた。
「まったく、信じられないわ」 「本当に、何考えてるんだか」 「この非常識野郎」 ロビン、コーザ、ウソップに囲まれて、エースは大きな体で縮こまっていた。静かに怒り狂うロビンの冷たい視線が恐ろしい。まともに見返したら石にされそうだ。 「俺がどうしても帰りたいって言ったんだってば!」 ロビンに叱られるから、ベッドから出る事ができないサンジが、輪の外から必死でエースを援護する。 朝いちで病院に寄ったロビンがサンジの脱走を知り、早々にウソップとコーザに伝わったらしい。小姑三人が乗り込んで来て、今やエースは人さらいの極悪人扱いだ。 「そうだとしても、貴方はそれを諌めなきゃならない立場でしょ」 「そうですよ、オーナーが無理するなんて分かりきったことなんだから」 「………はい、すみません」 もうこうなったらひたすら謝るしかない。次があったとしても、サンジのおねだりに逆らえない自分は、多分同じ行動を取るだろうけれど。もうこれは入り婿の処世術だ(別に婿に来た訳じゃないけど)。俺は今、きっと世界一マスオさんの気持ちが分かる男だぜ、などと、エースは遠い目をする。 「サンジの非常事態に全く役に立たない男なんて必要ないわ」 軽く黄昏れてるエースを容赦なく切り捨てると、さっさとサンジの世話を焼き始めたロビンに、あー、俺、闇から闇に葬られるかもと、背中に冷たい汗が伝う。 「それにしても、お前俺よりヘタレだったんだな」 しゃくしゃくとうさぎさんリンゴを食べながら、ウソップがニヤニヤと大変感じの悪い笑みを浮かべる。 「うっせーよ」 「サンジが死んだら俺も死ぬ!ってお前、相当……!!!」 自他ともに認めるヘタレ大王に言われたくない。でもロビンが怖いから、ここは黙って拳に物を言わせる。 「エースさんて、嫁さんが妊娠したら一緒につわりと陣痛が来るタイプですよね」 声も無く床にうずくまったウソップの代わりに、今度はコーザが毒舌を吐く。なんだ、この波状攻撃。こいつら俺を攻撃する時に限って、もの凄いチームワークを発揮しやがる。 「良かったわね、サンジに子供ができなくって」 「いつでも別れられますしね」 遠くの方からロビンもすかさず参戦してくる。それに乗っかったコーザには、ロビンから見えない様に、背中からレバーにグーパンチを入れてやった。平気な顔をしてるのがまた憎たらしいが。 それにしてもロビンはこの機会に、徹底的に俺を叩いておこうという腹なのか、などと、エースはそろそろ被害妄想に陥りつつある。あながち妄想でもなさそうなのが恐ろしいところだが。 「サンジ、いつだってうちに戻ってきていいんだからね」 ロビンに頭を撫でられて、「え〜と…」なんて、サンジは困った顔で笑っている。 「お前ら言いたい放題だなオイ!」 「あなたに文句を言う資格はないわよ」 「ハイ、すみません!」 思わず言い返す愚を犯したエースは、ロビンの氷点下の視線に晒されてビシっと気をつけをする。 「ロビンちゃん、エースを虐めないでよ〜」 「サンジ、あなたの我が侭が招いた事でもあるのよ」 「……ごめんなさい」 普段はサンジに甘いロビンに叱られて、サンジもしゅんと頭を下げる。 とりあえず、今日は二人ともおとなしくロビンのお小言を拝聴しているのが懸命のようだ。エースとサンジは、目だけで会話して、二人して肩をすくめた。
散々エースを虐めた事で気が済んだのか、皆、病み上がりにうるさくしてもいけないからと、意外にもあっさりと帰って行った。もちろん、サンジに無理をさせるなと、エースに釘を刺す事は忘れなかったが。 ようやく二人きりになって、エースはぐったりとベッドに懐く。ウソップとコーザに何を言われてもへでもないが、ロビンの精神攻撃はダメージが大きい。本当にあれ、ただの弁護士か?何か裏の顔があるんじゃねーか? 「なんか俺って、マジ扱い悪くねぇ?」 「愛されてんだよ、みんなに」 「……そりゃ絶対ないな」 それでも、皆がここまで大事にしているサンジを頂いてしまったのだ。彼が側にいてくれる幸福を思えば、多少のイジメは我慢しようって気にもなる。 …まあ、相手によりけりだけど。ウソップやコーザごときにいつまでも舐められてる俺じゃねーけどな………その場にロビンがいなければ。 ブツブツ言ってるエースの顔を、サンジが気遣わしげに覗き込んでくる。 「疲れた?エース」 「いんや、気が抜けただけ」 とは言いつつも、夕べは腕の中で眠る白い顔を見つめながら、寝ている間に具合が悪くならないか、呼吸は苦しそうではないだろうかと、不安でなかなか寝付けなかったのだ。 さらさらと頭を撫でてくれる手に、急激に眠気を誘われて、エースはサンジに促されるままベッドに潜り込むと、しっかりと大切な恋人を抱きしめて、幸福な眠りに落ちていった。
ようやっと終わりました。2年越しです(滝汗)。 グズグズの極みでスミマセヌ。ついにエース、マスオさん状態です。 かっこいいエースが書きたいのに…どうしていつもこうなってしまうんでしょう。
30日追記:昨日ぐあーっと書いてアップしたので、ちょっと不安で見直してみたら、誤字やら文章おかしいとこを発見。とりあえず直しましたよ…会社で。
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