St.A3Day連載小咄
2010年04月28日(水)
有言実行(めずらしい)。 気付けば1ヶ月以上ぶりのA3Day連載の続きでござんす。 (さっき日記書いちゃったから、ちょっとフライングで明日の日付で…)
サンジの店の前に停めっぱなしだったバンを取りに戻り、エースはその日予定していた配送分を片付けた。 いくつか急ぎの注文もあり、中でもいつも大口の注文をくれる依頼元から、どうしても今日の営業時間内にという発注を受けていたのだ。ここで穴を開けていたら、先方に迷惑をかけるだけでなく、得意先を無くしていた事だろう。サンジの言っていた事は正しい。 ほっとした顔で、それでも無理な発注を詫びてくれた先方の担当者に恐縮して頭を下げながら、エースは自分の甘さを胸の中で噛み締めた。 趣味が高じて始めた店だ。それでも、今は仕入れの質や、対応を信用して取引してくれる顧客がいる。個人経営の店など、そういう信用無くしては成り立つはずが無い。サンジはそれを嫌という程知っている。彼のいる業界もまた、厳しい世界だからだ。信用を失えば、すぐに客足が遠ざかる。幼い頃から祖父の店を手伝ってきた彼のプロ意識や仕事にかけるプライドにはただならぬものがある。 サンジとの生活にしてもそうだ。ようやく彼を手に入れ一緒に暮らし始めて、自分はただただ浮かれていた。サンジがいつも笑顔を見せてくれていた事に安心して、その笑顔の裏の彼の努力や苦労を考えようとはしなかった。 サンジの睡眠時間はエースより短い。どこでもすぐに深い眠りに付ける自分は、サンジが帰って来るまでの時間に仮眠を取る事も多い。遅くに帰ってきたサンジは、それでも朝は必ずエースよりも早く起きて食事の用意をしてくれる。その後だって、ずぼらな自分に代わって、家の中のこまごました事を片づけてくれるのだ。疲れていないはずが無い。 ようやく今日の分の配送を終え、道端に停めたバンのシートに深く沈み込んで、エースは自分のふがいなさに大きくため息をついた。 パンパンと両手で頬を叩いて、自分に気合いを入れる。今は落ち込んでる場合じゃない。 ロビンが先ほど電話をくれた。今日はこのまま入院して、明日には帰っていいそうだ。面会時間が過ぎたので、自分ももう帰ると告げた彼女に、エースは殊勝に礼を言った。あなたも無事で良かったわ、と笑うロビンの声が、電話ごしにもひどく優しく聞こえた。
夜の病院は気が滅入る場所だ。普段病院などに縁は無いが、一度知人の見舞に来て、裏口が喫煙所になっている事を知っていたエースは、そこから忍び込んだ。入院棟には重症患者の付き添い家族等もいるから、特に咎めだてされる事もなく、サンジの病室にたどり着いた。 「…サンジ?」 そっとドアを開けて、室内を覗き込む。 「エース!」 ベッドに身体を起こして本を読んでいたサンジが、エースの顔を認めた途端、パッと笑顔になった。 点滴のチューブは外されていた。エースに向かって差し出された両腕が、いつもよりも白くか細く見えるのは気のせいだろうか。いつもあの店で、自分たちの家で、元気に働いている彼が、こうして殺風景な病室のベッドでおとなしくしていると、儚げにさえ見えて、余計に不安を掻き立てる。 嬉しそうに胸元に擦り寄ってくるサンジの髪にキスを落とし、体に障らないように加減して、そっと抱きしめる。いつも甘くて柔らかい香りのするサンジから、今日は無機質な匂いがした。 「ごめんな、傍にいてやれなくて」 「大丈夫だって、大げさ、エース」 自分の顔を見て、あんなにほっとした顔をしていたクセに、そんな事を言う。 「具合悪かったんだろ?言ってくれればよかったのに」 「…本当にちょっと疲れたな、ってくらいだったんだってば」 眉を下げて情けない顔をするエースに、サンジは話題を変える様に明るく言った。 「さっきウソップが来てくれたんだ。店じゃパティのパフォーマンスが受けて、すっかり人気者になってるらしいぜ」 「ははは、そりゃ見たかったな」 「―――でね、」 腕の中のサンジが、もぞもぞと身動きしてエースの顔色を伺うように見上げてくる。 「明日は休みだから、一日ゆっくり休んだら、月曜からは仕事してもいいって、先生が」 ひとつため息を吐いてじっと見返したら、首をすくめて「だってただの貧血だから…」と叱られた子供の様な顔をする。 それでもこうして自分の出方を気にしているところが可愛いから、エースもきつくは言えなくなる。なにより、サンジにとって店を休む事は大事件だ。それも理解している。 「だけど、具合が悪かったら絶対に無理はしない事」 「うん、約束する」 神妙な顔で頷くサンジの額にこつんと額を当てて、エースはハア、とため息をつく。 「本当に、心臓が止まるかと思った」 本当は倒れたと知る以前に、別の理由で心臓が止まりかけたのだけれど、それは内緒にしておこうと思う。 「ごめん、心配かけて」 金色の頭をくしゃくしゃと撫でて、苦笑する。謝りたいのはこっちなのだが、お互い謝ってばかりじゃきりがない。 「もう眠りな、朝までいるから」 そう言ったら、サンジは何やらもの言いたげな顔でじっと見上げて来た。何かと思ったら、 「……俺、帰りたい」 拗ねた口調で、微妙に唇まで尖らせて。 「…サンジ」 「だって寝てれば直るんなら、家で寝てた方がいい。エースと一緒に寝てた方が元気になる」 めずらしく我侭を言うサンジに、そんなに不安だったのかと、また胸が痛む。ウソップが聞いていたら、きっとこれくらい、この甘えん坊の我侭王子にしては可愛らしいくらいだと言いそうだけれど。 「それに飯がすっごくまずいの。あんなん食ってたらよけい病気になっちまう」 ああ、それはサンジには辛いだろう。鼻に皺を寄せて言う彼に思わず笑う。 「だけどサンジ」 「やだ。やだやだ」 まるっきりダダをこねる子供の様にしがみついてくる。エースの首に腕を絡めて、泣き出しそうな顔で見上げてくる。 「なあ、うちに帰ろう?」 こんなサンジに逆らえる奴がいたら紹介して欲しい。それに、彼があの家を「うち」と言ってくれた事が信じられないくらい嬉しかった。そうだ、俺たち二人の家だ。すれ違っていても、二人が必ず帰る場所だ。 「よし、ずらかろう、サンジ!」 「うん!」 ぱあっと顔を輝かせ、サンジがまたしがみついてくる。 ジャケットを脱いで、寒くない様にサンジをしっかりくるんで抱き上げたら、はしゃいだ歓声が上がる。しー、しー、と二人で焦って顔を見合わせて、それでも人差し指を口元に当てたサンジは、嬉しくて仕方ないって顔でクスクス笑いが止まらない。彼の陽気さが伝染して気分が高揚してくる。囚われの姫を奪還するナイトの気分だ。 「テンション上がるぜ!」 「エースかっこいい!」 「おうよ!」 しがみついて来るサンジに、ん、と唇を突き出して、ナイトへのご褒美のキスを一つもらうと、エースは慎重にドアの外を伺った。
◇ ◇ ◇
いやほんと、どーってこと無い話でスミマセヌ…(汗)
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