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2007年08月24日(金) 4児の父

その晩、もうビールは5缶目に入っていた。

「俺は絶対にこんな法律の改正は認めない。

こんなの国会に出してなんて説明するんだ!

そういう役人的な発想はもうやめろ」

ほかでもない「役人」同士がそんな会話をしている

のがシニカルで、僕はもう完全にそのやり取りに

耳を奪われていた。

それでもなお部下は理屈を盾に食い下がろうとした。

「絶対にだめだ!俺の首をかけても通さない」

そして、押し黙った部下に対して、笑顔でこう言った。

「君らも上司がここまで言えば安心だろ?」

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7月、省庁は人事異動の季節。

新しい上司は同じ局の中でも有名な「うるさ型」の人だった。

確かに声は大きかった。

毎日、夜6時半を過ぎると大きな声で一言。

「誰かビール持ってきてくれ」。


部下の上げてきた仕事に不備があれば

一気に自分の意見をまくし立て「はい、やりなおし」。


その姿を見て、彼の異動してきた初日、

僕はどうしたものかと途方にくれていた。

けれど、仕事は待ってくれない。

自分でやるだけやって、同僚と一緒に上司の席へ行く。

いつものようにすごい勢いでまくし立ててくる。

周囲は皆しんとする。知識だって敵わない。


けれど、自分のやってきた仕事だ。

自分なりの考えもある。

それを筋道を立てて、話す。

負けないように、いつもよりは多少大きな声で。


すると、こちらの目を見て、耳を傾けてくれる。

「それはそうだ。そういう考えもあるな。」


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ある日、いつものように上司の席の前で、

喧々諤々の話をしているとき、

彼の座る席の後ろの壁に写真が飾られているのが

目に留まった。


コドモ4人と、相好を崩した一人のお父さんが

納まった1枚のセピア色の写真。


「あの人は4人のコドモがいるんだよ」、以前、

誰かがそう言っていた。


目線を戻し、再び彼と向き合った。

どんなに厳しい話をしていても、

どんなにがなりたていても

目の奥の優しさは隠せていなかった。

ちょっと不器用なだけなのだろう。


知識もあって、頭の回転も速く、そして弁が立つ。

判断は決してぶれずに、広い視野で物事を決断する。

自分が認めたら、部下の意見を採用し、

確実に仕事を進め、責任は自分で取る。

いろいろ言われてはいるけれど、彼を慕う部下も多い

のだと後で知った。


僕は社会人になってからたくさんの人を見てきたけれど、

叶うならまた一緒に仕事をしたいと心から思えた上司は

これまで2人だけだった。


今の職場は、とんでもなくきついところではあるけれど、

そこで3人目の人に出会えたのかどうか、

それは、この出向を終えるときにわかるのだと思う。


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「辛かったことは、

忘れてしまうものだから、良いことしか残らないから、

だからあまり以前のことをうらやんでも仕方ないよね」

昔はよかっただなんて、言いたくはないのに、

無意識のうちについそんなことを口にしたときに、

ある人にそう言われて、少し責められたような気がした。


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以前から手元で記している日記が、新しいノートに変わった。

たぶんきっといろんなことが変わる節目なのだろうし、

変えていかなくちゃいけないのだろう、と信じている。


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