2004/5/8の日誌で、筆者はポン・ジュノ監督のことを<韓国の黒澤明>と評した。で、いつの間にか彼のことを<韓国の黒澤明>とか<韓国のスピルバーグ>と形容することが世間でも定着してしまった。その最新作が「グエムル−漢江の怪物−」である。デビュー作「ほえる犬は噛まない」はコメディ、「殺人の追憶」がサスペンスで、今回は怪獣映画と来た。内容が非常にバラエティに富み一筋縄ではいかない曲者である。
「グエムル−漢江の怪物−」の評価はB+。やっぱりポン・ジュノは期待を裏切らない映像の魔術師である。今回のVFXは「ロード・オブ・ザ・リング」のWETAワークショップなど海外ににまる投げ状態で、だからCGのクオリティはきわめて高い。日本映画のVFXも頑張っているとは思うが、スタッフの数やかけている時間などWETAには到底敵わないな。
今回の映画で一番驚いたのは反米という意志で全編が貫かれていることである。これは韓国映画では極めて珍しい。しかしそのイデオロギーを、頭でっかちになることなく娯楽映画の範疇で通奏低音のように響かせるという匠の技が見事である。
漢江の怪物は米軍施設のホルムアルデヒド不法投棄により生まれるのだが、このあたりが水爆実験で生まれたゴジラの生い立ちと似ているのが実に興味深い。日本も韓国も事実上いまだに米国の属国であり、イラク派兵などアメリカ大統領の方針にNOが言えない悲哀が滲み出している。そう、ゴジラとグエムルは精神的兄弟なのである。
劇中アメリカはグエムルに接触した者はウィルスに感染すると騒ぎ立てるのだが、後にウィルスなど存在しなかったと発表する。このあたりイラクが核兵器を製造しているという理由で侵略し、でも結局核兵器なんて存在しなかったという顛末を痛烈に皮肉っている。
予定調和に収束しない観客の期待を裏切る結末も上手いし、怪物が現れてからしとしとと降り続ける雨などの自然描写、クライマックスに米軍が空中撒布するガス兵器で空がかき消されていくショットなど演出が光る。
最後に「箪笥」でも実に美しい音楽を書いた作曲家のイ・ビョンウが、今回も卓越した仕事をしていることを追記しておく。
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