エンターテイメント日誌

2006年04月08日(土) 2001年夏、NYにて〜そしてプロデューサーズを観劇した。

この日誌は前回からの続きである。

さて、いよいよ「プロデューサーズ」を上映しているセント・ジェームズ劇場に乗り込んだ。まずエントランスをくぐって最初に出演者変更の掲示板が出ていないか周囲を見渡す。代役(アンダースタディ)が立つ時は必ず告知があるのだ。ない。やったぁ!とロビーで小躍りした。結局完璧な初演キャストで観ることが出来たのである。

マシュー・ブロデリックやネイサン・レインは無論のこと隅々の脇役にいたるまで適材適所、隙がなかった。ゲイリー・ビーチ(演出家ロジャー・デ・ブリー役、トニー賞助演男優賞受賞)、ロジャー・バート(演出家のアシスタント役、トニー賞候補となる)は同役で映画にも出演しているし、「ヒトラーの春」の作者役でトニー賞候補となったブラッド・オスカーは今回の映画では同役をウィル・フェレルに譲ることになるが、ちゃんとタクシー運転手役で出演している。

ネイサン・レインとマシュー・ブロデリックは2002年3月で「プロデューサーズ」を降板した。ネイサンが演じたマックス役はブラッド・オスカーが受け継いだ。ちなみにロンドン公演でも椎間板ヘルニアで出演できなくなったリチャード・ドレイファスのピンチ・ヒッターとして舞台に立ったネイサンが降板した後、ブラッド・オスカーが招聘されたそうである。ロジャー・バートも後にマシューが演じていたレオを演じている。

マジェスティック劇場で「オペラ座の怪人」を観劇したときは前後左右から日本語がサラウンドのように飛び交い、ここは東京か!?という錯覚を味わったが、「プロデューサーズ」では殆ど日本人を見かけなかった。客席は終始熱気に溢れていたが、一番盛り上がったのはネイサン演じるマックスがひとり刑務所で"Betrayed(裏切られた!)"を唄う場面である。このナンバーはマックスが今までの経緯を振り返りながらレオや演出家のロジャー、スエーデン人秘書のウラなどの物まねを畳み掛けるようにどんどん繰り広げていく。そのパフォーマンスが圧巻でネイサンが唄い終わると、惜しみない拍手と歓声が巻き起こり、なかなか鳴り止まなかった。僕が「ショウ・ ストッパー」の真の意味を知った瞬間だった。

「プロデューサーズ」の面白さはまずオリジナルの映画がアカデミー賞でオリジナル脚本賞を受賞したように、台本が完璧であることが挙げられるだろう。それに加え、さらに舞台を華やいだものにしているのはメル・ブルックスが作詞作曲した愉しい唄の数々である。僕が中学生のとき、メルが監督主演した映画「新サイコ」をテレビで観た。映画自体は所詮ヒッチコック映画のB級パロディに過ぎないのだが、テレビの前で腹を抱えて笑ったのがその主題歌「高所恐怖症の唄(HighAnxiety)」である。ウィットに富んだメルの作詞・作曲のセンスに脱帽したのだが、その才能はミュージカル版「プロデューサーズ」で一層大きく花開いた。今回の映画版では一曲新曲が書かれているそうなので実に愉しみだ。

2001年のNY旅行で残念だったのは世界貿易センタービルの最上階にあるレストラン「トップ・オブ・ザ・ワールド」に行きそこなったことである。最高の眺望と美味しいフレンチを提供することで評判のそのレストランには日本を出国する前から予約していた。しかし、予約日当日の昼に「キャバレー」を観劇した際、空調が効きすぎて非常に寒く、ホテルに戻ってから高熱が出てダウンしてしまった。食欲も全くなく、残念ながらディナーをキャンセルせざるを得なかった。結局、世界貿易センタービルは自由の女神からその姿を望んだだけだった。そして日本に帰国して約一週間後、ニュース・ステーションを何気なく見ていると、一部の階から煙が立ち昇っている貿易センタービルの映像が映っていた。報道によると、どうも小型セスナ機が突っ込んだらしい(当初情報は混乱していた)。そして間もなくその映像にもう一機の飛行機がタワーに突進していく姿が映し出された。その瞬間、これは決して事故ではあり得ないと悟った。このようにして同時多発テロは起こった。瞬く間にビルは崩壊し、僕が「トップ・オブ・ザ・ワールド」に行く機会は永遠に失われたのである。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]