エンターテイメント日誌

2005年08月11日(木) 戦後60年、ヒトラーとは何者だったのかを問う

ドイツ映画「ヒトラー 〜最期の12日間〜」の評価はC-である。無意味に長すぎる上映時間(155分)を除いては取り立てて欠点もなく、かといって新鮮味とか美点もなく、淡々としたごく普通の映画である。ヒトラーを演じたブルーノ・ガンツのそっくりさんぶりは見事だが、有名なヒトラーの手の振戦(震え)の演技はわざとらしかった。

この映画はドイツで公開当時、ヒトラーの人間的側面を描いているということが物議を醸したそうなのだが、なにをいまさらという感が強い。ヒトラーだって人の子である。秘書や動物に対して優しいのなんか当たり前なことだ。なんでこんな下らないことで世間が驚くのかといえば、それはドイツ敗戦後、ヒトラーの非情で悪魔的な側面ばかり強調され続けてきたからである。ホロコーストという有史以来最悪の国家的犯罪を、ヒトラーただ一人の責任として押しつけてさえ置けば、ドイツ国民としての責任を回避できるという考えの甘さがそこにある。

しかし、忘れてならないのはナチスは公明正大な選挙によってドイツの第一党となり、議会民主主義のルールに則ってヒトラーは首相に選ばれたのである。ヒトラーの政策は当時のドイツ国民の絶大な支持を受けていたわけで、だからヒトラーの罪はドイツ国民の罪でもあるのである。ナチスの非道を「知らなかった」では済まされない。そこがクーデターで政権の座に着いたカンボジアのポルポトとか、共産党一党独裁の密室で選ばれたスターリン、あるいは権力を世襲した北朝鮮の金正日など他の独裁者とヒトラーの根本的相違である。寧ろ9・11同時多発テロを理由に、全く無関係のイラクを侵略し続けているジョージ・ブッシュとか、パレスチナ人に対するジェノサイド(大量殺戮)を実践しているイスラエルのシャロン首相の方がヒトラーに近い位置にいると言えるだろう。

21世紀を迎えた今、戦争は悲惨だとかナチスの悪行を描く映画を繰り返し撮っても無意味である。そんなことでははく、どうして当時ナチスはあれほどまでに熱狂的に民衆から支持されたのか、大規模な国家犯罪はいかにして成し遂げられたのかというメカニズムを解き明かす方向に進んでいかなければ駄目だろうというのが筆者の主張である。そういう意味で、「スターウォーズ エピソード3」は議会民主制が独裁体制に転落していく過程を分かり易く描いており、まさに今世紀の映画たり得たのだと想う。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]