2005年05月11日(水) |
才能は花開く <海を飛ぶ夢> |
「海を飛ぶ夢」は今年のアカデミー賞外国語映画部門で受賞したスペイン映画である。尊厳死を扱っているという点では前年の外国語映画賞受賞作、カナダの「みなさん、さようなら」と共通するものがあるが、あの主張ばかりで詩的要素に欠く、実に退屈な映画とは比較にならないくらい、イマジネーションの飛躍に溢れる芸術的傑作である。流麗なカメラワークが実に美しい。「海を飛ぶ夢」の評価はAである。
筆者は今までアレハンドロ・アメナバール監督作品のことをあまり好きではなかった。才気は感じるけれど内容が伴っていないという印象。トム・クルーズが気に入って「バニラ・スカイ」という題名でハリウッド・リメイクした「オープン・ユア・アイズ」はプロットや映像は凝っているけれど、ミステリーとしての出来は良くない。はっきり言って詰まらない。その後アメナバールがハリウッドに招かれて撮った「アザーズ」も単なる「シックス・センス」や「たたり」の焼き直し。画面は綺麗で雰囲気はあるが中身なし。
だけれど「海を飛ぶ夢」に至って漸く監督の持つスキルにシナリオの完成度が追い付いてきた。これは自らの死を望む主人公と、彼を支える周りの人々を見つめることを通じて、人間の生を問い直す映画である。
アメナバールは自分で映画音楽も作曲してしまうという世界でも珍しい監督だが(他の例としては大林宣彦、岩井俊二、そしてクリント・イーストウッドくらいしか思い浮かばない)、今回は音楽も生気に溢れ実に良かった。
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