エンターテイメント日誌

2004年06月13日(日) ラクロの<危険な関係>とヨン様

18世紀、フランス革命前夜のパリの頽廃的な貴族社会を書簡体で描写したラクロの心理小説「危険な関係」は今までに幾度となく映画化されてきた。

まずジャンヌ・モローとジェラール・フィリップ主演でロジェ・ヴァディムが監督した1959年のフランス映画があるが、これは残念ながら未見である。舞台は現代のパリに置き換えられているそうである。グレン・クロースとジョン・マルコヴィッチがメルトゥイユ公爵夫人とヴァルモン子爵を演じた、スティーヴン・フリアーズ監督の1988年版「危険な関係」は大変面白く観た。ユマ・サーマンの初々しいヌードが印象的。こちらは原作に忠実な時代設定となっている。「カッコーの巣の上で」「アマデウス」の監督ミロシュ・フォアマンも同時期の1989年に映画化しており、「恋の掟」とのタイトルで公開され、ビデオ発売タイトルは「アネット・ベニングの 恋の掟」、WOWOWで放送時は「恋の掟/ヴァルモン」となった(つまり題名変更を余儀なくされるくらい当たらなかったということだ)。これは一応観はじめたのだが、退屈なので途中放棄してしまった。次に1999年、現代のニューヨークに舞台を置き換えて、ティーンエイジャーを主人公に映画化したのが「クルーエル・インテンションズ」である。サラ・ミッシェル・ゲラー(祝、ハリウッド版「呪怨」主演!)の悪女ぶりが堂に入っていてなかなか気に入った。今をときめくリーズ・ウィザースプーン(「キューティー・ブロンド」)が純潔な少女役で出ているのだが、この映画では精彩を欠いた。ただし、リーズはこの映画での共演がきっかけで主演のライアン・フィリップと結婚することとなる。そして今回のヨン様ことペ・ヨンジュン主演の韓国版「スキャンダル」の登場となるのである。ちなみに2005年1月にはダンサーのアダム・クーパー演出・振り付け・主演によるバレエ「危険な関係」が日本で世界初演される。いかに「危険な関係」という小説が現代の芸術家たちを魅了し、創作意欲をかき立てるかが良く判るであろう。

映画「スキャンダル」の評価はB。韓国の貴族社会に設定を置き換えてはいるが、原作の精神を巧みに生かしておりなかなか見応えがある。凍結した湖とか終盤でのチョ婦人(=原作ではメルトゥイユ公爵夫人)の逃避行など印象に残る場面が多い。ペ・ヨンジュン演じる主人公(=ヴァルモン)も今までの映画化の中で最もセクシーで、はまり役だと想う。

ただ、もし歴代の「危険な関係」の翻案の中で筆者の一番のお気に入りを問われたら、躊躇なく宝塚歌劇雪組で上演された「仮面のロマネスク」(台本・演出:柴田 侑宏)を選ぶだろうな(この公演を収録した市販ビデオあり)。兎に角、脚色が素晴らしい。特にフランス貴族社会が瓦解する音を聴きながらメルトゥイユ公爵夫人とヴァルモンが踊る幕切れの鮮やかさときたら!まるでヴィスコンティ(「ベニスに死す」「ルードウィヒ/神々の黄昏」)の映画を観ているようだった。百年に一人の逸材といわれる大物娘役、花總まり演じるメルトゥイユ公爵夫人は誇り高く気品があって絶品だった。余談だが現在宝塚大劇場で上演中の「ファントム」(原作は「オペラ座の怪人」)で彼女が演じるヒロイン、クリスティーヌも実に可憐であった。さて、映画版でクリスティーヌを演じるエミー・ロッサムはどうだろう?


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]