2003年06月14日(土) |
Lose Eminemself(ルーズ・エミネムセルフ) |
今年のアカデミー賞でなにが一番驚いたって、何といってもエミネムが唄った映画「8 Mile」の主題歌Lose Yourselfがオリジナル歌曲賞を授賞したことだ。アカデミー会員は非常に保守的なことで知られているし、ラップがオスカーを受賞するのは史上初である。結局エミネムは授賞式でパフォーマンスをしなかったし、これはひとつの事件と呼んでも良い出来事だった。
Lose Yourselfのプロモーション・ビデオはこちら(←クリック!)で全曲視聴出来る。
正直に告白すると僕は当初、この曲の良さが理解出来なかった。しかし、実際にエミネムの半自伝的映画「8 Mile」を観終えた今、成る程これぞ真に<主題歌>と呼ぶに相応しい心に残る曲だと納得した。Lose Yourselfの歌詞には映画の内容が濃縮され詰まっている。エンド・クレジットに流れるこの曲に向かって、ひたすら映画そのものが疾走すると表現しても大げさではないだろう。「8 Mile」はそういう意味で、見事に音楽映画であった。劇中の会話までもがラップのリズムを刻んでいる。
Lose Yourselfが映画の最後に流れ出すと、直ぐに席を立って帰る観客が半数近くいたのだが、一体全体何のためにこの映画を観にきたのか問い質したくなった(笑)。この曲こそが映画のcore(核)でありsoul(魂)なのに。
「8 Mile」は今まで見たこともない世界を垣間見させてくれるという意味で非常にユニークである。白人が黒人から差別される世界を描いたという点でも他に例を見ないし、ラップ・バトルという過酷な競技も非常に新鮮だった。
手持ちカメラによるドキュメンタリー・タッチの映像、切れの良い編集などカーティス・ハンソン監督の演出も冴え、ラップという音楽の生理に映画が的確に寄り添い、息づいていた。
しかしこの映画の白眉はなんといってもキム・ベイシンガーだろう。男にだらしなくて、どうしようもなく駄目な母親を、痛快なまでに見事に演じ切っている。彼女がオスカーを受賞した同じくカーティス・ハンソン監督作「L.A.コンフィデンシャル」の娼婦役よりもはるかに良かった。彼女の監督に対する信頼と、友情が観ているこちらにもひしひしと伝わり、そこに男気を感じた。その美しい肢体も衰えることなく、撮影当時49歳とは到底信じられない!まあ、成人した息子がいるようには見えないというのが欠点といえば欠点か。ちなみに実生活において、エミネムの母親は自分を侮辱したとして、息子に対し1000万ドルの訴訟を起こしたそうだ。
それにしても「8 Mile」においてデトロイトは落ちぶれて閉塞した希望も何もない街として描かれ、主人公がなんとかそこから脱出しようともがく姿が描かれる訳だが、実際にデトロイトに住む人やその出身者にとって、この映画は辛いだろうなぁ。
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