そよ日暮らし の そよふぉとノート
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2005年04月21日(木) |
【題詠マラソン2005】 [やそおとめさんの百首より] |
【題詠マラソン2005】
やそおとめさんも過日完走されました。
お題を詠み、それと同時に「植物を詠む」という ダブルルールで取り組まれていたやそおとめさん。
やそおとめさんの百首の中から、特に好きな20首を お借りしてきました。
短歌辞典や植物図鑑で調べつつ、数日間かけて 好きなお歌を選ばせていただきました。
ここ「そよふぉとノート」や、自著「ひとりのはらに」などで、 わたし自身も触れたことのある野の花が、 多数詠みこまれていて、わくわくしました。
わたしの過去の写真の中から、何点か並べさせていただきつつ やそおとめさんのお歌を掲載させてもらいます。
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001:声 夏草の野に融けてます細胞がすきとほるまで綿菅の声
わたし自身の感覚と、いちばん近しく感じられるこのワタスゲの歌が やそおとめさんの出走歌であったこと、とてもうれしいことでした。
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■ 009:眠 男らを眠らせ闇を深うする合歓の女蘂は花明りして
合歓の女蘂 = ねむのめしべ と発音して良いんですよね?
やそおとめさんのお歌の艶っぽさが大好きなのです。
■ 034:背中 月光に背中(そびら)を濡らしゆく秋のをみなのゑまひ謎深くして
をみなのゑまひ = 女人の微笑み。(花が咲くこと。)
これは、こういう名前(をみなのゑまひ)のお花があるのかなぁと思い 調べてみたのですが、わかりませんでした。 いずれにしても、ほんとうに色っぽいですね。 そびら、ぞくぞくするのです(^^ゞ
わたしは、歌を読みなれていないので、 歌の途中に( )があると、そこで読みのリズムが崩れてしまうのですが、
このお歌は、くりかえして口ずさみ、すらすらと読めるように暗誦しました。 声に出すとますます美しいのです。大好きでした。
■ 062:風邪 風邪病みのかがり火草の忘れもの地下茎深き熱のほてりを
■ 052:螺旋 もぢずりの螺旋をあそびゐたる指こそばゆさうに脚にまつはる
もぢずり=ねじばな↓ですね。
ひとつずつ丁寧に読んだ時にはじめて、 韻律の美しさに気づかされます。
ゆっくりと、声に出して読みたいお歌ばかりなのです。 そして。読む側に想像する楽しさを残してくれていることに、 作者の余裕を感じるのです。さすがなのです。
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■ 079:ぬいぐるみ そらまめの莢型繭のぬひぐるみこひびとよひと日潜らうではないか
■ 096:留守 本日の天気晴朗妻は留守 ほたる袋に隠してラ・マ・ン
あかるい秘めごと、すてきなのです。どきどきします。
「そらまめのさや型まゆのぬひぐるみ」 ! 「ほたる袋に隠してラ・マ・ン」 あぁ。
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■ 049:ワイン 香もろともワインの函が届きたり敷き詰められておらんだげんげ
おらんだげんげ = クローバー(しろつめくさ)なのですね。 敷き詰められていたものが、しろつめぐさとわかったとたん、 身近なお歌になりました。 そしてたちまち嬉しくて。
調べて知ったからこその喜びなのかもしれなくて。
■ 008:鞄 落葉松の道たもとほり音も無くこんじきは散る鞄のうへに
落葉松(からまつ)のこんじきは散る・・・と聞いて、胸がときめき、 この歌を、ちゃんと理解いたしたく、「たもとほり」を一生懸命調べました(^^ゞ
たもとほり = 徘徊る(たもとおる)= さまよいながら という意味でした。 まったくもって勉強になりました。
カラマツの道さまよへば音もなく散る・・・ とても好きな風景でした。
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■ 044:香 目に見えぬいさぎよき色くれなゐの吾木香こそ己がこころに
目に浮かぶのはワレモコウのあの色、そしてたたずまい。 歯切れのよい、きっぱりとしたスマートなこんなお歌にあこがれます。
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■ 097:静 ソリテュード「積極的な孤独」の似合ふ花一人静は群れてもひとり
群れながら ひとり 静かを つらぬくことは
(中略)
群れて咲く ひとりひとりの ヒトリシズカにあいました
これ↑は、 わたしが過去に書いたものの一部です。 視点がおなじで、とてもうれしかったのでした。
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■ 066:消 発展的解消とまれ美しう恋はおはらぬ闇夜のあやめ
■ 082:罠 シナプスの欠落の罠ゆふすげのあの日あのときたしかに恋は
ほんとうに、大好きなお歌でした。 きゅんとなります。
恋の歌は、こんなふうに、 やはりとことん美しくなくてはっという思いをあらたにしたしだいです。
「シナプスの欠落の罠」 雰囲気は、わかるつもりでいましたが、正しく知りたく調べてみました(^^ゞ
シナプス = ニューロンとニューロンとの接続部。また、その接続関係。 伝達される興奮の増幅や抑制を行う。 ニューロン = 刺激を受容・伝達する機能をもつ。神経元。神経細胞。
おぉ・・・・。大辞林 第二版 (三省堂)より。
■ 085:胸騒ぎ 仙人掌(さぼてん)の棘を秘めもつ胸騒ぎわかれしのちの死を伝へあふ
■ 086:占 木木は伏し鳥は流されきみと吾(あ)の砂漠占ひ 塵から塵へ
「わかれしのちの死をつたへあふ」 「砂漠占ひ 塵から塵へ」
≪塵から塵へ≫ という表現に釘付けになりました。
■ 069:花束 水汲みのやそのをとめの垂れ髪に堅香子の花束ねありしも
[本歌取り]というのでしょぅか、それとも[返歌]というのかな・・・。 そのあたり、勉強不足でわからないのですが、 この歌は、以下の大伴家持の歌から生まれたものにちがいないです。(よね?)
もののふの 八十少女(やそおとめ)らが 汲(く)みまがふ
寺井(てらい)の上の 堅香子(かたかご)の花
大伴家持 (万葉集、巻十九)
堅香子 = カタクリ ですね。
もしかすると、やそおとめさんの筆名も、 このお歌からつけられたものなのでしょぅか・・・。 そんなふうに考えると、 やそおとめさんのこの歌(069:花束)にこめられた想いの深さも深まるようで、 感慨深く読ませていただいたのでした。
カタクリは、わたしにとっても、大好きな、かけがえのないお花なので、 とてもうれしく思いました。
■ 100:マラソン らうらうと百首マラソン詠ひあげ猩猩袴(しやうじやうばかま)舞ひ納めたり
そしてこれは、100首目の、最後のお歌。
これもまた、やそおとめさんご自身の素顔に迫れるような、 うれしい気持ちで拝見しました。
今回、はじめて気づいたのですが、 やそおとめさんのブログのプロフィールのページタイトルは、 「猩猩緋」となっていました。
猩猩緋(しょうじょうひ)とは、わずかに黒みを帯びた、あざやかな深紅色のこと。 (または、その色に染めた舶来の毛織物。)
手元に、わたしが撮影した猩猩袴の写真がありませんので 自著「ひとりのはらに」のページを一部、転載させていただきますね。
「ぶっきらぼうなやさしさの ショウジョウバカマ ・・・」
と書いてあります。
これは、わたしが過去に書いたものですが、 いま、百首を読み終えて見えてきた、やそおとめさんのイメージと ぴたり重なり、そのことに、誇らしさまで覚えるのでした。
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ワタスゲからはじまって、 ヒトリシズカ・マイヅルソウ・カタクリ等々々を経て、 そしてショウジョウバカマで締めくくられたやそおとめさんの百首。
とても他人事とは感じられず、夢中になってこのページを作らせていただきました。 あいかわらずに、ひとりよがりなことばかり書いてしまいましたが、 とても楽しく、そしてうれしいことでした。
たくさんの短歌を転載させていただき、ありがとうございました。
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おしまい。
ついでに宣伝させてください。よろしければ、のぞいてくださいね。
web かたくりものがたり (昨年の春につくったカタクリのアルバムです。)
book ひとりのはらに 一昨年の夏にうまれた写真詩集です。 30数種の野の花の写真に言葉を添えました。 かんたんな野の花図鑑としてもご利用になれます。
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