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2003年05月05日(月) ■ |
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◆松山バレエ団 こどもの日特別公演『ジゼル』ハイライト版(15:30の部) 佐藤明美、石井瑠威、他 |
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お話: 森下洋子 プレゼンテーター:村山寿実 SJB(School of Japan Ballet)
ゴールデンウィーク最後の日の温かな午後、通いなれたオーチャードホールへ。 「こどもの日」に毎年Bunkamuraで行っている松山バレエ団、『こどもの日特別公演』は、子供に生のバレエの素晴らしさを伝える企画として定着しているようです。 松山バレエは私が初めてバレエを観たバレエ団ですが、その後2度位しか拝見しておらず、今回は久々でした。 上演されたのはハイライト版でしたが、ほぼ全幕版と比べても遜色無く、1幕と2幕、削られている部分が気にならずに観る事が出来ました。
このバレエ団の皆さんが、芸術を人々に届けたいという“熱”や“一生懸命さ”が大変伝わる公演でした。確かに素晴らしい一体感。 しかし私の目からは、バレエ団独特の雰囲気や演出について、正直、つらいと思うところ、気になる部分などが感じられてしまいました。
11:30〜と15:30〜の回があり、私は後の方。 子供達に観てもらいたいと企画意図の為、観客は普段の公演で見かける時より小さな子供さんが多かったです。 きちんとホール側から、子供でも観やすいように、高さがでるクッションの貸し出しもされていました。行き届いた心遣いですね。 グッズ販売コーナーでは、森下さんのアップ顔写真が転写されたTシャツ等が売っていました。(着るにはちょっと勇気がいりますよねぇ)
さて、始まると幕から、学校の制服のような服装のプレゼンテーターとよばれる若い司会者(バレエ団かバレエ学校の生徒)が登場し、ストーリー説明や、森下洋子さんにインタヴューを行っていました。 それが(プレゼンターが)聴いていて恥ずかしくなるくらい“青年の主張”のようなテイスト。 頑張って一言一句覚えたのでしょう、原稿に書かれた決められた言葉を、間違わず独特の笑顔で話されていました。 森下さんのインタヴューは時間にして少しだけ。バレエの素晴らしさと『ジゼル』を踊れて大変幸せという趣旨のことなどくらい…。
その後、SJB(バレエ学校の生徒)がバーレッスンと基本動作を、豪華なクラシックチュチュ(ティアラ付き)姿で見せてくれました。 あの生徒達全員の作られたような笑顔の表情にビックリ。 衣装もレッスンを見せるだけなのですがかなり豪華でした。
美術も凝っていてポルタイユまで用意おり隙なしという感じですね。 これは好きですし良いと思います。他のバレエ団も古典を上演する時など真似してほしいくらいです。
『ジゼル』ハイライト版(テープ演奏)
ジゼル: 佐藤明美 アルブレヒト: 石井瑠威 ヒラリオン: 鄭一鳴 ミルタ: 小菅紀子 ペザント:倉田浩子、久保阿紀、鈴木正彦、石井瑠威
ハイライト版では、どこの場面が抜けていたのでしょうか。 この松山(清水)版『ジゼル』は全幕を観ていないので正しいかどうか解りませんが、多分バチルド姫達一行が最初の登場に絡む場面の、ジゼルの家で飲み物など接待を受けるところ、首飾りをバチルドから貰うところくらいしか、足りない部分が思い浮かびません。 本当はもう少し圧縮されていたかもしれませんですが、先に述べたようにストーリー上は気になりませんでした。 ジゼルのソロもバチルド姫がその場に登場してなくても、きちんとありましたし…。
ジゼル役の佐藤明美さんは、背丈もありスタイルも大変美しく充分主役の輝きがありました。 ただ、1幕目は、このバレエ団全員に感じる事ですが、過剰な演技、(清水氏の演出指導だと思うのですが)身体が弱く純真な乙女という意識からか、物凄く恥ずかしがったり、ナヨナヨともたれかかったり、首をすくめてみたり、昔の少女文学に出てきそうな乙女という感じ。 でも何度も言うようですが、彼女だけではなく団員全員がこの調子でした。
狂乱の場では髪が殆ど乱れませんでした。 演技はそんなにオーバーではなかったですが、周りの娘達や母親役の方がかなり…。 でも2幕は良かったと思います。腕の動きの美しさや技術の確かさ、特にソロの時の踊りは、観客から自然と拍手が沸き出てきて、私もとても感心しました。 それとアラベスクの姿勢が上半身スックと起き上がった形で、あまり前傾にならないのが特徴でしょうか。 あと、先程の解説によれば、最後、ウィリ達からアルブレヒトを救ったジゼルの“愛”によって、アルブレヒトだけではなく村全体まで浄化するそうです。(すごいなぁ!)
アルブレヒト役の石井瑠威さんは体格や身長など申し分なく、ノーブルな役がいかにもお似合いという印象です。 しかもこの版では、ペザントの踊りにも登場し活躍してました。 他の男性ダンサーは女性ダンサー程、気になる“あの表情”にはなってなかったですし、踊り自体は皆高いレベルで迫力があり良かったと思います。
1幕には男性達だけで踊るパートも挿入されていましたので、より華やかさが増して楽しめる作品に仕上がってました。 ヒラリオンも1幕2幕とも活躍する役どころになっていますし、演じた鄭一鳴さんの存在感も光ってました。 そしてペサントを踊られたベテランダンサーの力量にも感心しました。
〈その他の印象について〉
まず衣装ですが、主役級以外の出演者は何種類もの生地を重ねたかなり華やかなつくりです。 クーランド大公は古典歌舞伎の衣装かと思われるほど派手ですし、ジゼルの母親ベルタなんて村で生活しているようには見えない立派な感じでした。 実際に踊る村娘達も小花のプリントした布を何枚も重ねているので、とてもスカート部分がふくらんでいます。 それと隅々まで手を抜かないというか、抜けないというか、ヘアアクセサリーに至るまで全員バッチリ凝ってました。
2幕のウィリの衣装は地色が白ではなく、グレーベージュでライトには映えづらいのですが、ラインストーンがちりばめられて、(頭も花冠ではなく煌くラインストーン)「白鳥の湖」の花嫁候補のようです。ミルタはもっと派手に光り物が輝いていました。 ジゼルだけ白のシンプルな衣装で、ライトに映えて浮かび上がって見えます。たしかに一番綺麗に見えました。
舞台美術に関しては衣装の凝ったテイストそのままで、隙間を埋めつくし、ぬかりない感じ。シンプルというものの反対を、これでもかとばかり見せてくれます。 1幕のジゼルの家にはタワワに沢山の葡萄が実っていたり、収穫祭の小道具やら、2軒の家セットが大きいとか、空いたスペースがない感じです。 そこでダンサーが踊るのはかなりきつそう。 端はセットがある為、中央部に集まってコール・ド達が踊ってました。
2幕セットはついては納得出来ませんでした。 ジゼルの墓の後ろに巨大な装置が置いてあり(とても邪魔)、左右に分かれて立つウィリがよける形で分断されていました。したがってコール・ド達は全体に右よりになってしまう。 踊りやフォーメーションの美しさを見たいのに踊るスペースが狭くて、中央部でこじんまりと踊るなんて。
後は1幕でのダンサー達の表情とか、何とかならないのかなぁ…。 疑問に思う方はいらっしゃらないのでしょうか。出来ればもっと自然な感じにするとか…。 まぁ、松山バレエ団の個性といったら個性でしょうけど、どうも私には...。
でも踊りなど良かったですし、色々発見があって面白かったです。 とても温かな雰囲気というのが伝わってきました。
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